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第七話
「すんごい匂いですね」
「おー、万全の態勢だな」
マスクの上にタオルを巻きつけている、爺ちゃんたちは、感染予防のために着るような使い捨ての白いつなぎ、ゴーグルや、ゴム手袋をはめた。
長靴も用意してある。完全防護だな。真崎もその横で同じ格好だ。
「こちらがマネージャーさんの田中さん」
「姉ちゃん、よく聞いてくれ」
子供の救出だけ、たぶん母親は泣き叫ぼうが何をしようが家から出ることはないだろうという。
「いいか、だからどんなことがあっても子供を連れだしてあんたは隣の家に連れて行ってくれ」
「できるかい?」
「はい、お願いします」
ばあちゃんたちは田中さんに何やら話していると彼女は家の方へと走って行った。
「よし、晃、これ持ってこい」
車の中から機械を出した。
チェーンソー?
「何かの時には、切る!」
「おい、おい、そんなことしたら」
「子供の命と家とどっちが大事じゃ!」
「亜美ちゃんを助けてください、お願いします!」
戻ってきた彼女はタオルやいろんなものを抱えていた。
「姉ちゃんのほうがよくわかっておる、ほれ、支度しろ!」
じいちゃんたちは、腰巻をした、いろんなものと工具がついている、それとごみ袋をひっかけた。。
「いいか?俺らはまっすぐ二階に行く、晃、あの窓だな」
二階を指さした。
「あそこです」
「後輩」
「はい」
「お前は俺の後ろをくっついて、カメラを回せ、証拠だからな、ばあちゃんたちは母親が悪さしねえように見張ってくれ。晃、しんがりだ、支持出したらすぐに動けるように後ろからついてこい」
「なんかスゲーな」
「戦場に行くんじゃ」
「そんな」
「そんな気で行かなきゃ、においだけじゃないからな」
「後輩君、吐くんじゃねーぞ、それじゃあ突入する!」
これだけ外で、大声で話をしていたら、普通なら外をのぞくだろうがそんな感じもない。
玄関を開けようとした。
「あ、あかない!」
「鍵がしてあるんじゃねーの?」
「あ、カギ、あります、待っててください」
カギを開けるも中に何かあるのに引っかかって開かない、ごみが邪魔をして、扉が開かないのだ。
ごそっ、ごそっと音を立てながら開き始める。
「開きます!」
もうすでに見えている、玄関は何かで埋まっている。
ごそ、ガサガサガサ!カランカラン。
ゴミ袋、空のペットボトルとかが音をたてながら流れ込んで外にも何個か転がりだした、だが、はるかに目の前を、つぶれて圧縮した、ごみがうずたかく積み重なっていた。
「晃、押し上げてくれ」
「あ、はい」
みんなを中に押し上げた、俺は真崎に引っ張ってもらった。
「足とられるなよ!」
真崎は、ハンディカムで、爺ちゃんの後ろをついていくのがやっとだ、体がごみに埋もれていく、長靴がそれに足を取られる。先頭のばあちゃんたちはごみをかき分け中に分かれて入っていく。俺達はじいちゃんの後を追った。
「階段じゃ行くぞ、晃、母親がいたら、羽交い絞めにしてでも、子供から離せ!」
「は、はい」
何が起こるんだろう?この人たちはプロだ。何回もこんな修羅場をくぐりぬけてきたという。武勇伝にもならない話は、悲しいものが多いと聞いた。
ペットボトルの海を歩いていく、ほとんどが水だ、水道が使えないのか?
階段だ、ほとんど埋まっていてわからなかった。登っていく。
「二階はまあまあ少ないな」
ほとんどの部屋がドアが開きっぱなし、だけど、ここだけは閉まっている。
「ここだな?」
うんとうなずいた。
「亜美ちゃんおるかい?」
声も何も聞こえない。
あけようとした。あかない。鍵がかかってるのか?
「晃、体当たりできるか?」
「やってみます」
何回か体をぶつける、ずっ、ずっと扉が開いていく。
「何かが引っ掛かってるようだな、それ貸せ」
「壊すのか?」
「中に入れんじゃろ」
ヒモを引っ張った、エンジンがかかりものすごい音、それと同時に叫ぶ声が下から聞こえた。
ドアが高い音を立て、切られていく。中が見えた。
「晃、中にはいれ、このままでその辺を切れ、後輩、ちゃんと撮って!」
バリバリと扉に開いた穴の開いた所から手を突っ込んで壊して体をねじ込むようにして入った、まだエンジンの音がしていてじいちゃんが扉を切っている。
カーテンが引かれた暗い部屋に、扉が開いたことで明かりが入った、手錠をつけた女の子が、横たわっている、周りは、汚物ですごいことになっていた。
爺ちゃんからチェーンソーを借りると俺は、長靴のまま、汚物の上を歩き、その手錠のついている、手すりを切り、女の子を抱き上げた。
「どうじゃ?」
「生きてます!真崎撮れたか?」
「はい、ウエー」
「我慢しろ、外ではけ、晃、女の子を連れて行け!」
俺は女の子を抱きかかえ表に向かって走った。
階段を降りると、ばあちゃんにつかみかかっている女が下に見えた、手を伸ばすのを阻止するばあちゃんたち。俺はその横を通り過ぎようとした。着ている物をものすごい力で引っ張られた、それを振り払うとバランスを崩し、母親は後ろへ転んでいた。
「こっちはいい、その子をそとへ!」
「あみー!!」
女の甲高い声、外で待つ田中さんに、女の子を渡した。
「救急車、早く!」
「はい、亜美ちゃん、亜美ちゃん!」
俺はゴム手袋や、ゴーグルをはずした、胸の音を聞く、まさか死んでる?のどに手をおく、脈は?・・・なんとかある。人工呼吸。
「生きててくれよ!」
鼻をつまみ、息を入れる。息をしない、もう一度!
「けほっ」
「息した、あみちゃん、あみちゃん」
目が開いた。
「パパ?」
そう言って目を閉じた。
「あみちゃん!」
気を失っただけ。俺たちは汚れた服を剥ぎ取り体をふいてやった。
汚物まみれの下着はものすごい事になっていた。肌は荒れ、体中に何かが浮いている。髪の毛はカチカチになり。ちゃんと食べていないからか爪が変色。
「ひでーな!」
「こんなになるまで」
中では、ギャーギャーと泣き喚く声が聞こえる
真崎が出てきて、そのまま吐き出した。
そして、爺ちゃんたち。
「晃、下ろしてくれ」
抱き下ろすと、そのまま扉を閉めてしまった、もう、声は聞こえない。
「まさか自殺なんてしませんよね?」
「それはない、救急車は?」
「もうきます」
音はすぐそばまでしていた。
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