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夜、一般病棟に入ったと連絡があった、だけど、芸能人の子供という事で個室となった。
部屋の前で足を止めた、このまま入っていいのだろうか?父親じゃないと拒否されたら。えーい、考えてもしょうがねえ、手を伸ばした。
トントン。
「どうぞ」
「ただいま」
「お帰りなさい!」
うれしそうな顔。
ものすごい環境にいたため、目が見えないらしい、それが幸いした、ぼやけて見える目に俺は父親として映っている。
「はい、お土産、これだったら食べていいって」
「やった―プリン、可奈ちゃん食べよ」
「うん、いただきます」
「どうぞ」
テレビの横に俺のパネルが飾ってあった。
「ご飯は食べましたか?」
「たべたよ」
ほんと?と可奈さんを見た。
「はい、重湯だったんですけど平らげました」
笑顔で答えてくれた。
よかった、可奈さん、食事は?
「さっきまで、千晶さんがいてくれて食べてきました」
「そう」
「パパ、夜はいてくれるんでしょ?」
「どうしようかな?」
「エー、いてよね」
「だって、いたら寝ないだろ、寝るのが治る近道なのになー」
「ちゃんと寝る、だから寝るまでいて」
「わかったよ」
「はい、あーん」
「あーん、おいしいな」
「おいしいね」
顔をさわる、ひげが伸びてるとかそんなたわいのない話をした。
「寝ちゃった、お腹が膨れたからかな?」
「疲れただろ、可奈さんも休んで」
「千晶さんがいる間寝たんです、ですから今日はお帰り下さい」
「そうか、それじゃあ、ちょっと話をしようか」
俺は明日の話をした。
「台本の話は聞きました、うまく行くでしょうか?」
「それは君と亜美ちゃんにかかってる、最高の娘役をしてほしい」
「でも」
社長たちは可憐さんの引退を望んでいる。
「もう女優としてダメだっていう事ですか?」
「違う、だってそれは彼女が望んだことじゃないだろ?」
「でもそう仕向けられたら」
「そうかもしれないな、精神的に弱いからこんなことになってしまったんだと思う。だから君たちの力、支えが必要になる、そうだろ?」
「でも、可憐さんは」
「君の事を娘だと思ってないって思ってる?」
「・・・はい」
そうかな、俺から見たら、君の住んでいる家はまるで、芸能人の住む家で、今の可憐さんが入っている家の方が、どう見たって普通の人が入る家に見えるよな。
「それは」
それに君の部屋も、彼女が愛情いっぱいに君に与えたのがうかがえる。
「可奈の可は可憐さんの可、お母さんから聞いてない?」
「…聞いてません」
「君は、お母さんが離婚してからお父さんとは会ってないのかい?」
「一度もあってません」
「会いたくない?」
「はい、私は父が嫌いでした」
「彼も、芸能人だ、どこかで出会ったりしただろ?」
「え、あ、本当だ、どうしてだろう?」
「お母さん、可憐さんが手を回していたとしたら」
「あっ」
瞬きをした彼女の目から涙が流れた。
「君を守ってたんだよ、お母さんとして」
わっと、顔を隠し泣き始めた。俺は彼女の背中を擦ってやることしかできなかった。
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