第八話

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 夜、一般病棟に入ったと連絡があった、だけど、芸能人の子供という事で個室となった。  部屋の前で足を止めた、このまま入っていいのだろうか?父親じゃないと拒否されたら。えーい、考えてもしょうがねえ、手を伸ばした。  トントン。 「どうぞ」 「ただいま」 「お帰りなさい!」  うれしそうな顔。  ものすごい環境にいたため、目が見えないらしい、それが幸いした、ぼやけて見える目に俺は父親として映っている。 「はい、お土産、これだったら食べていいって」 「やった―プリン、可奈ちゃん食べよ」 「うん、いただきます」 「どうぞ」  テレビの横に俺のパネルが飾ってあった。 「ご飯は食べましたか?」 「たべたよ」  ほんと?と可奈さんを見た。 「はい、重湯だったんですけど平らげました」 笑顔で答えてくれた。  よかった、可奈さん、食事は? 「さっきまで、千晶さんがいてくれて食べてきました」 「そう」 「パパ、夜はいてくれるんでしょ?」 「どうしようかな?」 「エー、いてよね」 「だって、いたら寝ないだろ、寝るのが治る近道なのになー」 「ちゃんと寝る、だから寝るまでいて」 「わかったよ」 「はい、あーん」 「あーん、おいしいな」 「おいしいね」  顔をさわる、ひげが伸びてるとかそんなたわいのない話をした。 「寝ちゃった、お腹が膨れたからかな?」 「疲れただろ、可奈さんも休んで」 「千晶さんがいる間寝たんです、ですから今日はお帰り下さい」 「そうか、それじゃあ、ちょっと話をしようか」  俺は明日の話をした。 「台本の話は聞きました、うまく行くでしょうか?」 「それは君と亜美ちゃんにかかってる、最高の娘役をしてほしい」 「でも」  社長たちは可憐さんの引退を望んでいる。 「もう女優としてダメだっていう事ですか?」 「違う、だってそれは彼女が望んだことじゃないだろ?」 「でもそう仕向けられたら」 「そうかもしれないな、精神的に弱いからこんなことになってしまったんだと思う。だから君たちの力、支えが必要になる、そうだろ?」 「でも、可憐さんは」 「君の事を娘だと思ってないって思ってる?」 「・・・はい」  そうかな、俺から見たら、君の住んでいる家はまるで、芸能人の住む家で、今の可憐さんが入っている家の方が、どう見たって普通の人が入る家に見えるよな。 「それは」  それに君の部屋も、彼女が愛情いっぱいに君に与えたのがうかがえる。 「可奈の可は可憐さんの可、お母さんから聞いてない?」 「…聞いてません」 「君は、お母さんが離婚してからお父さんとは会ってないのかい?」 「一度もあってません」 「会いたくない?」 「はい、私は父が嫌いでした」 「彼も、芸能人だ、どこかで出会ったりしただろ?」 「え、あ、本当だ、どうしてだろう?」 「お母さん、可憐さんが手を回していたとしたら」 「あっ」  瞬きをした彼女の目から涙が流れた。 「君を守ってたんだよ、お母さんとして」  わっと、顔を隠し泣き始めた。俺は彼女の背中を擦ってやることしかできなかった。
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