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「よし、それじゃあ、同行は、晃と、ノム。記事は堂本、新聞はどうする?」
頭に手拭いを巻いた編集長と、新聞部の上の人たちが雁首揃え、相談中、俺たちは準備に大わらわ。
「写真は晃に任せる、記事は川島に行かせる」
「時間はわかってんだろうな」
「直で行かせる」
ばたばたと走り回る人たち、スクープは一分一秒まってくれることはない、今が旬、その時だけだ。
「ぶんさんそっちはどうだ?」
「こっちは明日の十時まで行けるそうです」
「こんだけのスペース開けたんだ、ポカやらかすんじゃねーぞ」
「わかってるよ」
「お前の「わかってる」がいちばん信用できねーんだ!」
「頭に血が上って死んじまえってんだ」
「何をーお前なんかに言われたくねーよ、十年はえーよ」
「十年のうちにくたばっちまうってんだな」
「その時は俺、編集長やります」と手を挙げた真矢。すると周りにいたものが真矢でできるならと手を挙げた。
「おめえらなんかに、この机渡してたまるか、ほらさっさと行け、他のネタ探し出してきやがれってんだ」
「ヘイヘイ」
「返事は“はい”じゃ!」
「へーい」
「死ね!」
「じじいこそ死ね!」
「中島塩まいとけ塩」
「はーい、まったく、何で漫才になるかね?」
「誰が、漫才だって?」
「イエー、何も、ハハハ、行ってきます」
日帰りで、俺は可憐達の育った町へ来ていた。
施設は移転、亜由美のいた家もマンションになっていた。
なんだかやたら新しい家が目につく。
掃除をしているご婦人に施設の事を聞いた。
この辺はそばの川の決壊で、水が入り、施設を中心にしたこの辺は土地が低くて水が押し寄せ、ほとんどの家が水に飲まれたそうだ。
田中さんという方を知っているか聞いた。施設のそばにいたと聞いている。
「娘さんがいたんです」亜由美さんの名前を出すとア~と言われた。
濁流にのまれた母親を助けようとした父親はその時ケガをした、それが原因で寝たきりになってしまったそうだ。
「あーちゃんもね、地元で働きたかったんだけど、働き口がなくてね、東京へ行ったんだけど、それからは聞いてないわね」
「ご両親は?」
ア~と顔をそむけた。
心中なさったとその方は言われた。
俺はそこで取材を打ち切った。
トントン
「はーい」
「ただいまー」
「ほらー、あたった」
「ほんとだ」
そこにはドアを開けてくれた亜美ちゃんが立っていた。
「いいのか?起きて?」
「少しは歩きなさいって」
トイレに行ってきたんだという。そうか、偉いな。
「目の方は」
「んーまだねぼやーっとしてる、でもわかるよ」
「じゃあ、これは食べてもいいな」
「キャー、ケーキ、いっぱい」
「ウワー、いっぱいだ、全部はダメよ」
「全部はダメだよな、可奈ちゃんにもあげて」
「亜美の好きなイチゴばっかり、どれにしよう」
「どれでもいいぞ、逃げていかないから」
「逃げないよー」
「そうかなー?」
俺は一つ取り上げた。
「あー」
「ほら、お口の中に逃げ込んじゃうぞ」
「ワーダメ―、それがいい、パパはこれあげる」
「エー、一個しか乗ってない」
「いっぱいのったのは私」
「じゃあ、私にはこれをください」
「はいどうぞ、いただきまーす、おいしい!」
最高の笑顔だな。
「コーヒーでいいか?」
「私買に行きます」
「ちょっと電話してくる」
「あ、はい」
おいしいねと言っている。
パパか、いいけど、本気にされないうちに、バグっておかねえとな。
「もしもし」
決まったよ、明日、時間は九時。
「九時?遅くないか?」
私たちは五時に出る。
「五時、じゃあその時、台本を渡すのか」
まだかかってるみたい、でも準備はしなきゃ。
「そうだよな、で、物は何処に運ぶ」
倉庫、借りた、処分場の近く。
「ん、おう、そうかわかった、ん?今日は帰る、うん、わかった、じゃあな」
コーヒーと紅茶を買って、部屋に戻った。
「決まったよ」
「そうですか」
「亜美ちゃん」
「なに?」
明日、パパと可奈ちゃんお仕事なんだ、一人でお留守番できるかな?
「うん、平気だよ?」
「パパの会社の知り合いのおばあちゃんが来てくれると思うんだ、来たらよろしく頼むね」
「お名前は?」
「杉本トメさん」
「杉本?ちあきちゃんも杉本だったよ?」
「そうか、千晶ちゃんのおばあちゃんなんだ」
「そう、わかった。ねえ、もう一個いい?」
「お腹壊すぞ」
「じゃあ、半分」
「まあいいか、今日だけだぞ」
「やったー、えーっと、これ!」
子供の笑顔は本当に癒される、このまま続けばいいが。
「おいしい」と笑った彼女たちは、宝石のように輝いて見えた。
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