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第二話
そんな商店街の中心部には立派な神社があり、この辺の中心、その門前には蕎麦屋があり、ここは杉社長の母、リン婆ちゃんの親戚の家、年末には長蛇の列になる、俺も何度も来た。杉の従業員たちが、家族も引き込んで、蕎麦屋と神社の手伝いをする。
そこを通り過ぎると、かわら屋根の低い家が商店街の中を一層古くさせる。
開け放たれた店先には、不釣り合いなパソコンが二台と、うるさいほどのガチャガチャしたポップが飾られ、その横には、昔ながらのガラスのケース棚が、昔のカメラをきれいに並べている。
それを覗き込みながら声を掛けた。
「おーい、できてるか?」
「できてますよー、いまもってきます」
奥から声がする、奥さんに見せられませんね。そう言いながら一枚のパネルを出してきた。
「見せるのは、本になってから、へー、いいね」
「いいでしょ、引き伸ばしましたよ」
「んー、まあいいか」
ここは昔ながらの写真屋。若い店主は千晶の後輩なのだそうだ、幼馴染っていいね。
「今時古い焼きなんかしてないんですからねわがまま言わないでください」
他の写真も見る。
「でもデジタルだとなんか、こー、カクカクしているんだよなー」
「わかりますけどね、はい、フイルム」
「thank you、君がこの商店街にいてくれて助かるよ」
「まったく、去年まで知らなかったくせに、杉本のおばあちゃんに感謝してください」
「はい、はい、それじゃな」
「あー、御代、会社に請求しますよ」
「頼むよー」
本当に感謝するぜ。
杉の会社が見えてきた。
「こーまーちちゃん」
「いらっしゃい、なんだ晃か」
ここはいまだにタバコ屋があり、中には大昔ギャルだった店主が座っている。初めてここで声をかけられたのは彼女だったのだ。
まあ今どきタバコ屋だけではやっていけないのか、彼女の所では鞄やバックなど扱っている。カートや旅行かばんなどもあるのだが、その奥には古い鞄やランドセルが積み上げられている。
リサイクルは、国内でも使われるが、海外へも出ていく。特に海外ではブランド会社が大人用のカバンに作り替えるそうで、ここにもそのかばんが並んでいる。
まあ、これも俺にとっては大事なネタで、しっかり取材させてもらった。
「それはねーべさ」
「はいよ」
何も言わなくても客の好みの煙草を何も言わなくても出すあたりはさすがだなと思ってしまう。
「ありがと、ライターくれ」
「ほれ」
「なんかいいネタありませんかね」
一本出して火を付け返した。
「そうさなー」
手を伸ばしてきた。片手でスマホを操る、今どきのばあちゃんたちはすごいね。
「何それ」
「そりゃ、貰うのもらわなきゃね」
伸ばした手をひらひらと降って見せる、何かくれと催促。だが彼女のおかげで俺たちは確実な物を掴んだ。
千晶の母親がいなくなった時、彼女が見た光景は異様なものがあったのだそうだ。
父親のワイシャツに着いた真っ赤なシミの後、それと靴も履かずに髪を振り乱して走り出てきた女、それを無理やり車に押し込め、急発進でここから出て行った。
そのネタを売るも、信じてくれなかった、警察もどこもかしこも信じられなくて。リークしたのは彼女、俺のことを聞いてすぐに社に流したのだそうだ。今やっと出てきて感謝していると涙ながらに俺に頭を下げてくれたのは、葬儀の時だった。
「えーと」
金がないかポケットをあさる、たばこ代ぐらいしか持ってこなかったような。ビニル袋をカウンターに置くと、大したもんがねえなとのぞいている。
「やめとけ、そいつは今ニブチンじゃ」
「トメ、お前にゃ言われた―ないわ、男なんか寄っても来ないくせに」
通り過ぎていく老人を目で追う。
「何、やっぱり、まだ女な訳?」
「そりゃ―ねえ、八十過ぎてもモテればねえ」
パーマのバッチリ効いたアフロ髪をさわって見せる。
「アホが、ぼけじゃ、ぼけ、いくぞ!」
じゃあねと手を振った。
「まったく、足で稼げ、足で」
「はーい」
トマトとカステラの半端物をもらったと差し出した。
「この頃はただでもらう事憶えたな」
「ばあちゃんたちのおかげです」
「わかってればよろしい」
家の横の道を歩く、宅急便の兄ちゃんが頭を下げて通り過ぎた。大きな門をくぐり、広い土間の玄関を中に入ると立派な大きな石が一段高くなって、そこから上がる。
横には長い廊下が縁側へと続く、中央の板の間の一段高いところには畳の部屋が碁盤の目のようにふすまで区切られていて、上り口のすぐ横にはキッチンがあり見慣れた風景が広がる。
「お、きたか」
「何で爺もいたのか」
暖簾をくぐると広い昔ながら台所、そこにはでっかいテーブルがある。まあ、ある程度の大きさのテーブルが三つ繋がっているだけなんだけど、そんなのが置けるんだからどれほど広いのかよくわかる。椅子もいろんなものが置かれている、そりゃ便利屋さんですから、廃棄されそうなものを持ち込むのはお手の物と言うところか。そこには、息子に似つかない小さな体のじじいと、少年が昼の準備をしていた。
「悪かったな、尚、これ出せ」
「晃さんいらっしゃい」
「あれ、祐は?」
「兄ちゃんバイト」
「稼ぐねえ」
「そろそろテストだよ時間があるんだって」
懐かしいね、期末テストか、お前も来年だなと話すと、夏休みが終わったら制服とかの準備をするのだそうだ、早いなと思っていると暖簾から出てきたかっぷくのいいババア。
「あら、来たの」
「悪いね、リンばあちゃん、これお土産」
「あら、ありがと、ご飯にしましょうか」
幸助じいちゃんと、リンばあちゃんは、努(つとむ)社長の親。トメばあちゃんは、千晶の祖母で杉にお嫁に行った咲(さき)叔母さんの母親。そして、尚(なお)小六と祐(ゆう)中三この兄弟は千晶の義理の兄弟、母親は違うが、仲はいい。まあこいつらも母親に反発しているとこがあっての事だからいいのだが。学校が変わることでいじめとかにあったらどうしようかと思ったがその辺は素早かった。まあいろいろあったけど、そこはホロウできたしな。あの夫婦は終わっていた、離婚はすぐに受理され、こいつらは母親の方の苗字になった。だがそれも、努社長の心意気で、彼らは姉と同じ杉本へと名を変えた。
今は二人とものびのびとしていると千晶は言っていた。
「尚ちゃ~ん」
「尚にいーちゃん」子供の声がしたと思ったら庭先から上がってくるちび達。
「手、洗ってこいよ」
「うん、きょうは何?」
「残りもんだ」
「えー」
「早く手洗ってこい」
こいつらは咲さんの下の双子の兄妹、弘一(こういち)と真尋(まひろ)小三その上に中学一年の女の子、絵美(えみ)がいる。
俺は、コマチちゃんに、千晶に兄弟がいるのかという意味で、下に何人いるか聞いたことがある。五人と聞いて、下に五人の兄妹がいると思っていた。
「確かに五人だわな」
「何の話?」
「千晶の下に何にいるかなと思って」
弘一が数えはじめる
「オー五人だ」
「ねえ、晃、北海道いつ行くの?」
「んーまだわかんね―けど、真尋たちが休みの時じゃねえかな」
「千晶にばっかり頼んでんじゃねーぞ」
「弘一君は口がうまいですねー」
グリグリと頭に拳を押し付ける。いでいでと言っている、本当ににくたらしいほどかわいい。
尚に、犬の散歩、一緒に連れていけと言っている。
二人も半年ほどでたくましくなった。親は、刑務所に入っているが、杉社長は二人に仕事をさせることで、泣くことに暇を与えないようにしていた。
強く生きなければいけないと。
「晃さん、これなんですか?」
「ん?開けてみてもいいぞ」
「ワー、凄い、これどうやってとったんですか?」
「まあちょっとしたコツだよな」
「綺麗だなー、かっこいいー」
翁長の写真をパネルにしてもらったのだ。
「写真屋の腕だよな」
「弘一―!」
ウワー、ごちそう様!
まてー!
「ばあさん、お茶」「おりんちゃんわしも」「はいよ」
「にぎやかですねー」
「尚も爺くさいな」「晃と同じで年齢詐称しとらんか?」「さばよんでるか」
「してませんから」
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