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第四話
一軒家だとは聞いていたが、その家を見ていた。周りは、花壇や芝生、まあ手入れがされている、誰かがやっているのだろうか?二階建て、普通の昔からある日本住宅って感じ、玄関も引き戸。ふと見上げると洗濯物を干すベランダには、ものすごい物が積まれている。
ゴミかなと思うと、花を植えるための長細いプランターポットが積み上げられ、どこから持ってきたのか、子供用の自転車なんかもある。一階は雨戸が閉まっていて、中が見えない。敷地の中に足を踏み入れた、ドアがある、勝手口か?そこにはハッポースチロールの箱が重なっている。
敷地が続く隣の家、こっちはお城みたいなかわいい作りだな、ベランダにいた女性と目が合った。その女性が隣の家からあわてて飛び出してきた。
「すみません、杉さんでいらっしゃいますか?」
「あ、社長は今車に」
「恐れ入ります、こちらに車を置いていただいてよろしいでしょうか」
「はい、ちょっと行ってきますね」
走って車に戻って話をした。俺は歩いてその女性の出てきた家の方へ、車を誘導した。
「恐れ入ります、私、木田可憐のマネージャーしております、田中と申します」
名刺をいただいた。若い子だな。
「杉です」
「大上です、あの、ご依頼はお子さんの子守なのでしょうか?」
「ここでは何ですので中へどうぞ」
「はあ」
こっちの家の方がだいぶ豪華な気がした。
「あの、中村社長から、こちらは口が堅いので安心していいと言われたんです、口外はしないでいただけますね」
ですが時と場合に寄ります、こちらで危険だと思えばお断りいたしますし、警察沙汰にすることもございます。
「知っています、でも藍染さんの時は、スマートに解決していたと私は見ています。スポーツ紙や雑誌も元は同じ会社で取り上げて正解だったと思います」
「ご存知でしたか」
「お話は伺いました」
どうぞこちらへと案内された応接室、豪華だなー。
座っているとコーヒーを出してくれた。
ご依頼の件は嘘ですか?
俺の問いに彼女は動かしていた手を止めた。
「ウソではありません、ですが、助けていただきたいのは・・・あの親子なんです」
「助ける?」
「助けるなんて依頼の仕方はおかしいですね」
椅子に座った彼女は、自分の組んだ手をうつむきながら見ていた。
「お話だけでもお聞きしますけど?」
彼女も疲れ切っているようだった。
芸名、木田可憐、本名、木下礼子、48歳、彼女は役をもらうと、ストイックなまでに自分をその役に引き込んでいくで有名な女優だ、賞も多くとり、海外にも行っている、その評価は高い。
そうなると周りの事が見えなくなる。
家の中に引きこもりセリフを自分のものにする。そして一歩外に出れば大女優、木田可憐としてどうどうと舞台に上がるのだ。
「それじゃあ、家の中は」
「ものすごい事になってます、片付けたくても頼める業者もいなくて」
「それでは片付けが先ですね」
「それが堂々巡りでして」
まあそうでしょうね。
子供の亜美ちゃんはそれまで、一生懸命母親のために片づけを彼女としていたそうなのだ。
「偉いですな」
「健気です、でもそれがある日」
ゴミを出していた亜美ちゃんに近所の人たちが母親の悪口を言った。そこを通った可憐はますます外に出なくなってしまった。
あろうことか、亜美ちゃんまでも外に出さなくなってしまった。
そう言えばこの頃見てないな。
「あの、どのくらい引きこもってますか?」
「もう一年半近くなります」
「ご両親は」
「可憐の親はいません」
「別れた旦那さんの方は」
「・・・多分無理だと」
「こういう癖を知っているんですね」
「はい」
社長はノートにメモしながら聞いていく。
「では離婚もこのせいですか?」
「そうです」
彼女は淡々と答えてくれた。
食事の事や、風呂とかどうしているか。
わからないという。
「マネージャーさんなんですよね、なぜわからないのですか?」
近寄ろうとすると中に入れなくなる。というか、入れないようにしてしまう。どこかから見ているのだろうか?
前は?お手伝いさんとかは?
いたそうだが、高齢でおやめになった。
それからは頼んでいないのですか?
ええ。
その返事にうまくいかない何かがあるんだろうなと思いながら話を聞いていた。
食事はほとんど電話で注文しているのか、外には買い物にも出ていないという。
「お子さん、亜美さんと最後に出会ったのはいつですか?」
「学校の先生が来たときです、今年の三月です」
生きてるか。社長がポツリと言った。
そんな、まさか死ぬなんてこと?ぶんぶん、考えたくもない、自然と首を振っていた。
「失礼ですが、田中さんはマネージャーになって何年ですか?」
「付き人として入ったので、マネージャーは四年です」
「付き人は」
「十年です」
「あの、失礼ですがお年は?」
「二十五です」
千晶と同じ、若いとは思っていたが、それに、やぼったい服装にメガネだが、ちゃんとしたら、可憐に負けないくらい美人じゃねーか?
「ながいですね、お若い時から付き人を」
「私の亡くなった母が、可憐さんの親友でずっと世話をしてくれてもらっていて、彼女の事は私と社長夫妻しか知らないんです」
「どうしますか?」
〈まずは、親子を家から出さないと、でも、何か抱えてるなー?〉
社長さんに会って話を聞きますか?
んーそれからでもいいか?
その方がいいと思います。帰ってじいちゃんたちにも聞いてもらって知恵を借りましょう。
「そうだな、田中さん、二日ほどいただけますか、だいぶ荒療治になると思います」
「よろしくお願いします」
「もしも何か変わったことがあったら社へ連絡をください」
社長は、家の周りをぐるっと見て回っていた。俺もファインダー越しに家を撮った。
ん?あのこか?一瞬だったがその子をとらえた。そして睨みつけるように俺達を見る女の写真を撮った。
木田可憐、こえ―かお、まるで鬼だな。
車に乗り込み帰り道、運転をしている社長に尋ねた。
何をなさってたんですか?
「ゴミの量だよ、一度に片付けたいからね」
ゴミ屋敷って何度かあるんですか?
「あるよ、凄いのから、まあまあの物までな」
大変ですか?
「心になんか持っている人たちだからね、エンドレスだよ」
なんか取れたかと聞かれ女の子を見せた。
「十歳にしちゃあ、小さいな」
それと母親の鬼のような顔。
かわいそうにと社長はぽつりと言った。
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