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第五話
車を駐車場に置いて店へ歩いて向かった。
「ただいま」
「お帰り、仕事?」
事務所にいた千晶が俺を見ていった。すぐに社長が入ってきた。
「うん、お疲れ様でした」
「着替えてくれ」
まだ匂いが染みついているような気がして、顔を洗って、鼻の中を洗いたい気分になって、うがいを何度もした。店の中へ、社長はどっかと大きな体をソファーに預けていた。
どこ行って来たの?と聞く。客の処だ、お茶くれ。
俺に灰皿を持ってきた。
「晃俺にもくれ」
換気扇を回す音がして、俺は社長に火を付けて俺も一本咥えた。
「きみちゃん、オッカーは?」
「さっき終わったって連絡があったので、三十分後だと思います」
「じいちゃんたちは?」
「会長は、銭湯のボイラー修理です。副会長は、老人会の打ち合わせに、常務は商店街の会長さんの処です」
「ろくは?」
「エー、祐君と移動中かな」
「連絡取ってできるだけ早く戻れるか聞いてくれ」
「はい」
いつ聞いてもここの人員管理はすごいと思う。時間単位、分刻みで動き回っている、時は金なり、働かざるもの食うべからず。俺は、くわえたばこでパソコンを借りさっきの写真をプリントアウト、何度か仕事を手伝い俺ももうここの一員だ。プリントを渡すとそれを社長が怖い顔つきで見ている。
「おつかれー」
「おうごくろう、みんなは?」
「車っす、もう着ますよ、あー、晃さん一本、お願い」
この子はシン君、歳は二十二だが体が一番小さく、すばしっこい。まだ少年のようだ。
「お前なー、いつも貰ってばっかりじゃんかよ、まったく、やんなくていいっすからね」
この子は、岩(がん)ちゃん、二十五のイケメン、前、ホストをしていた子の一人。
「だって高いんだもん」
ほらよと一本出すと嬉しそうに頭をぺこぺこ下げた。
「あざーす」
「シン、また、たかってんのか、おつかれ」
お疲れさまと従業員たちがどやどやと入ってくる、涼しい事務所の温度が一気に上がった。
「今晩仕事のあるやついるか?」
いねえーんじゃねかな?
ないっすよ。
ある?ない。なんかの返事が返ってくる。
「それじゃあ、会議だ、八時、常務んちに集合」
ウス!
へーい!
返事が返ってくる。
若い一人もんはアパートへと帰って行く。寮を兼ねているので、一人で入っている部屋はないそうだ。結婚し、まあまあの年の人は、ここをでて行っているそうだが、近場の人ばかりだという。
「社長、今高速だそうです、一時間はかかるそうです」
「八時に集合のメール打ってくれ」
千晶を捕まえた、会議って何やるんだ?
「会議は会議」
「あっそ、俺達の飯は?」
「ばあちゃん家、お風呂わかしてくる」
「尚は」
「犬の散歩」
「アーそんな時間か社長、向こうの社長さんは?」
「アーそうだ聞かなきゃな、電話じゃまずいかな」
「まずいでしょ」
「そうだよな」
「夫婦で行ってきてください」
「頼んでみます」
今婆ちゃんの家でこき使われています。みんな小さいので大きいのは使い勝手がいいそうです。
「晃」
「はい」
「ここの襖外せ」
「はい」
「こっちもな」
「はい、はい」
ふすまを外すだけで大きな部屋になっていく、古い家はそれだけで利用価値が広がる。
夏だし、蚊取り線香があちこちで煙をあげている。
何処にあったのかホワイトボードをもってきた。
「何が始まるの?」
「会議だって」
二人の兄弟も何が始まるのか興味津々だ。
「お姉ちゃん、俺達は?」
「いてもいいよ」
「俺帰ろうかな」
「あんたが聞いてきたんでしょ、いなさい」
「はい」
周りにいるもの達に笑われた。
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