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ーー昨日、颯斗とジャマ子は一緒に帰ってきたらしい。
なぜかジャマ子はアイツの部屋の前で、
楽しそうに見つめあっちゃって、
ジャマ子の口元にアイツの手が伸びて、
それから先は見えなかったけれど、
妙な胸騒ぎがする。
颯斗、ジャマ子のどこがいいんだよ。
あんなおっちょこちょいで放っておけないような奴、
近くにいたら気が気じゃないわ……
「へえ、気が気じゃないんだ?」
颯斗がコーヒーカップを手に、俺の顔を覗き込む。
「!」
「なーんかブツクサ言ってたから、聞こえちゃった~♪」
「……」
俺はふいっと顔を反らした。颯斗が淹れたせいで、部屋の中がコーヒーの匂いになった。
「お前、よくそんなもん飲めるな」
「俺からしたら雄嗣の方がよくそんなの飲めるな~って思うけど」
颯人は俺の手元を指差す。それは、俺の淹れた、特製ハチミツ入りハーブティーだ。
心を落ち着けようと、口をつける。いつもは落ち着くその香りが、逆に俺の心を掻き乱す。
「あ゛ーもうっ!」
「な~にそんなにイラついてるのさ?」
ケラケラ笑う颯斗は、俺の座るソファのへりに腰掛ける。
「……ッチ」
俺は颯斗の座る反対を向いて、舌打ちをした。気に食わない。颯斗も、俺のこの感情も、何もかも気に食わない。
「雄嗣、佳英ちゃんに会いたいんでしょ?」
颯斗の顔にニヤニヤが貼り付いているのが、その声色で分かった。俺は顔を背けたまま、乱暴に言い放った。
「んなわけねーだろ!」
「あ~あ~もう、2人そろって厄介ねぇ。会いたいなら隣の部屋の前に立ってピンポンを押す、それだけじゃない。すぐに会える距離なのに、なんでそうやっていつも……」
「うっせーな、黙って聞いてればさっきっからんなんだよ!」
思わず振り返って乱暴に言葉を投げかけると、待っていたかのように颯斗の顔が満足そうに皺を寄せた。そして首をかしげて、こんなことを言う。
「恋のキューピット、的な?」
「ああ゛?」
「佳英ちゃん、会いたいって言ってたよ?」
「……っ!」
「あ、黙った」
「ちっ……」
「おお、怖っ!」
颯斗がわざと肩をすくめたとき、玄関から呼び鈴が聞こえた。思わずドキリと肩をぴくつかせた。そんな俺を見て、颯斗は思わず噴き出した。
「噂をすればなんとやら、じゃない?」
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