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5 マーマレードクッキー
チャイムを鳴らすと扉が開く。その向こうの人物は、私の顔を見るなり盛大に舌打ちをした。
一瞬ひるんだが、ここで立ち止まっていは居られない。私は彼に会いに来たのだ。私は手に持っていたレジ袋を、彼に向かって突き出した。
「あ、あの、これ、牛乳……」
「ああ゛?」
「この間、間違えてブラックコーヒー買って行ったでしょ? あの……カフェラテ、私に譲ってくれた日」
「…………」
無言で私を睨みつけるその視線に、きっと視線に殺されるっていうのはこういうことを言うんだなと謎なことを悟る。ごくりと唾を飲み込んで、私はせっかく会いに来た彼に笑顔を向けた。
「あ、もう、飲んじゃいました……か?」
「ぜ~んぜん飲んでないよっ♪ 俺、さっき冷蔵庫で見たもん!」
ひょっこりと後ろから顔を覗かせた颯斗さんに、私は心をなでおろした。
「雄嗣もさぁ、そんな誤解されそうな目つきしないの! 佳英ちゃん、脅えちゃったじゃない」
「い、いえ、私は、あの……」
「颯斗、てめぇ……」
「まぁまぁ、2人とも落ち着いて? さて、と。俺はお邪魔虫かな」
颯斗さんはさっとキャラメル男の前に出ると、スニーカーにさっと足を突っ込んで「今日は~俺が~ジャマ子~♪」と謎の歌を残して去っていった。
「あの……これ、はい」
私はレジ袋ごと彼の胸に牛乳を押し付けた。
「お前、作れよ」
「…………は?」
突然押し付けたはずの袋とともに引かれた私の腕。そして、私はキャラメル男の大きな手に腕を掴まれたまま、キッチンに連行されたのだった。
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