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「ちょちょちょ、待ってください!」
キッチンで、私は彼の腕を振りほどく。キャラメル男はお構いなしに、冷蔵庫の中を漁ってブラックコーヒーの缶を取り出した。
「なんでこうなるんですか?!」
「お前にカフェオレ譲らなかったら、俺はブラックなんか買わなかった」
キャラメル男は、心底嫌そうな顔をしてコーヒーのブルタブを開ける。
「だから、お前が作れ」
そう言いながら開封時に飛んだわずかなコーヒーの付いた手を、シンクで念入りに流す彼。その光景に、だんだんと腹が立ってきた。
「あーもう、本当口悪いし強引なんだから! 何よせっかく人が牛乳買ってきたっていうのに!」
「ああ゛?」
水を止めた彼は丁寧にタオルで手を拭きながら、まだ私を睨む。だから私も、意地になって睨み返した。
「いい、自分でやりもしない人に買った私がバカでした! 持って帰ります! ついでにクッキーも作ってきたけど、全部颯斗さんにあげちゃおっと!」
私は彼に背を向け手に持ったレジ袋もそのままに玄関にむかってずかずかと歩き出した。と、私の腕を、また彼の大きな手が掴む。それは、先ほどよりも強くで強引で、思わず私は振り返った。
「…………」
「もう何?!」
「……クッキーは、ください」
その大きな身体とはあまりにもかけ離れた蚊のような声で、彼はそう言った。その頬は赤く染まり、視線は宙をさまよう。
こんなに身体は大きいのに。
口も目つきも悪いのも知ってるのに。
――私の心臓が、キューっとなってしまったから仕方ない。
私は溜息を一つこぼして、彼にこう言っていた。
「分かった。作ればいいんでしょ、牛乳たっぷりのコーヒー」
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