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颯斗さんにはコーヒーを淹れ、私は朝食のトーストを頬張る。ちょうど食べ終えたころ、シナモンの甘い香りが漂ってきた。
「そろそろかな?」
颯斗さんがそう言うと、ちょうどオーブンが鳴る。彼が取り出したそれは、とても美味しそうな色に焼けていた。
「初めてにしては、上出来じゃない?」
「はい!」
なぜか満足感でいっぱいで、ほっと息をついた。
「佳英ちゃん、休んでないの」
「へ?」
「さ、届けに行くよ!」
「届けにって……」
「もう、雄嗣に決まってんじゃん!」
「え?」
アップルパイから顔をあげると、颯斗さんはなぜか私に膨れて見せる。
「何のために作ったのさ?」
「いや、そもそも私は……」
「じゃあ、なんで雄嗣の好物なんて聞いてきたのさ?」
「そ、それは……」
「好きなんでしょ?」
「……っ!」
「俺なんかより、ずっと」
そう言った颯斗さんは、微笑んでいるのにまたあの目をしていた。私はなんだかその顔から目が離せなくて、小さくコクンと頷いた。
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