バラの門に立つあなた

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イヴの旦那さんはとても優しそうな人で、朝、自分を見送るイヴを何度も振り返りながら出勤する。 イヴをとても愛しているのだ。 あんなにいい旦那さんがいるのに、イヴはどうして王子様の話なんかをするのだろう。 そんなに簡単に他の男を好きになるならどうして結婚なんかしたんだろう。 よく大人は『大人の事情』といかにももっともらしい事を言うが、その大半が大した事情じゃない。 本人らが勝手に物事を小難しくしているだけだ。 僕は決めているんだ。 僕は自分のやっていることに言い訳ばかりする大人にはならないって。 イヴがあんまり嬉しそうに王子様の話をするものだから僕は本来一番嫉妬すべき旦那さんに同情するようになってしまった。 自分の愛する妻の頭の中が他の男のことでいっぱいだなんて、もし僕が旦那さんだったらどうするだろう。 イヴをレッスンに行かせないようにしても、その男に2度と会わせないようにしてもイヴの頭の中までは拘束できない。 人の心は縛れないんだ。 僕は僕でイヴと旦那さんの間に割り込む小さな侵入者なのだが、僕はいいのだ。 だって僕はまだ中学生の子どもなのだから。 僕は言い訳ばかりする大人にならないと言いながら、すでに言い訳ばかりする子どもだった。 「旦那さんは僕のこと知ってるの?」 ある日、イヴに訊いてみた。 イヴはうふふと笑っただけで紅茶を飲んだ。 「言ってないんでしょ」 「知ってるよ」 「なんだ」 「なんでなんだなの?」 「べっつに」 僕はふかふかのソファーに背中を沈めた。 なんとなく秘密にしておいてもらった方が、イヴが僕を特別だと思ってくれているような気がしたんだ。 それに当たり前だが白馬に乗った王子様のことは旦那さんには話してないはずだ。 「黙っててほしい?」 「言ってないの?」 「言ったよ」 なんだかカチンときた。 「僕もう帰ろっかな」 心にも思ってないことを言った。 カチンときたけど、まだまだイヴのそばにいたかった。 喧嘩しながらも同じ部屋にいる僕の両親の気持ちが1ミリくらい分かった気がした。
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