42人が本棚に入れています
本棚に追加
タマもエドワードも本当に必要なこと以外はしゃべらないようエコモードに切り替わる。
昔はノーミートマンデーというのがあったが、今はもうない。
その必要がないからだ。
毎日人工肉以外の本物の肉を食べる人は誰もいないからだ。
「体験レッスンはどうだった?」
「うん、よかった」
「入会するの?」
「もうしてきたよ」
「そうなんだ、いつ通うの?」
「毎週水曜日」
「ふうん」
ロウソクに照らされる颯一郎さんの顔が何か言いたげだ。
「なぁに?」
「いや、いい事だよ、そうやって百合子が何か新しいことをするのは。家にばかりいないでもっと外に出たほうがいいよ、そっちの方が百合子のその妄……」
颯一郎さんはカレーを食べる手を止める。
「私の‘もう’なに?」
「なんでもないよ」
そして思い出したように水を飲む。
「それより白い恋人食べようか、僕が紅茶入れるよ」と颯一郎さんは立ち上がった。
水曜日は朝から浮かれすぎていっぱい失敗をしてしまった。
タマのヘルプがあってもそうだったのだからよっぽどだ。
流君とのレッスンのことで頭がいっぱいだったのだ。
驚くほどまずいグリーンスムージーを作ったり、いつまでもコーヒーができないと思ったらコーヒーメーカーのスイッチを入れるのを忘れていたり。
颯一郎さんは嫌な顔一つせず、2人分のまずいグリーンスムージーを飲んで――私は不味すぎて自分の分が飲めなかった――仕事に出かけた。
颯一郎さんの見送りも早々に家に入ると出かける準備を始めた。
『レッスンに行くだけなのにずいぶんお洒落するんですね』
時々エドワードは余計なことを言う。
そんなエドワードを無視し私はいそいそと家を出た。
『いってらっしゃい、イヴ』
1週間ぶりに見る流君は変わらず王子様そのものだった。
間違いない。
流君は私がずっと待っていた私の王子様だ。
「それでは百合子さん、今日もよろしくお願いします」
流君はレッスン室のドアを閉め笑顔で私を見つめる。
最初のコメントを投稿しよう!