探偵は事件を掃除する 〜こんな探偵に捕まりたくない!〜

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 俺は子供の頃からミステリ小説やマンガを読み漁り、刑事ドラマや2時間サスペンスを見て犯罪の研究にいそしんでいた。  それは全て、あいつを殺す為の準備だ。あいつはこの辺一帯を牛耳る権力者の息子で、子供の頃から何度となく苦汁を舐めさせられて来た。  学校ではいじめられ、先生に言っても取り合ってもらえず、進学の推薦枠も金で取り上げられ、気になっていた女の子も横取りされた。  この積もり積もった恨みを晴らす為、俺は考えに考えてトリックを思いついた。足がつかないように準備も整えた。  あいつの家では、毎年一月に盛大な新年会が行われる。勿論俺も参加する。  やるならその時だ。見てろよ。  新年会は予定通り行われ、俺はそれに乗じてあいつを自殺に見せかけて殺すことに成功した。部屋は密室にしてあるし、アリバイの偽装もしている。  完璧なトリックだ、凡庸な警察などにはわかりはしまい。もしこのトリックを破るのなら、明智小五郎ばりの名探偵でも連れて来ないとダメだろう。  案の定、警察は自殺として処理しようとしていた。計画通り。  だがその時。 「待って下さい! これは殺人だ!」  バン、と戸が開き、誰かが入って来るなり言い放った。 「そして、この中に犯人がいる!」  それを聞いている俺達は一様にポカーンとしてその人物を見ていた。……なんでこんなところに、ピンクのウサギの着ぐるみが出て来るんだよ!? 「あ、あなたはボランティアでいつも庭のお掃除に来てくれている、お掃除ウサギさん!」  ここの家族の人が少し説明的に言った。言われて見れば、ウサギは片手に竹箒を持っている。何だよそれ! 確かに庭にピンクの影が見えた気がしたけど! 俺より怪しい奴を堂々と敷地内に入れてんじゃないよ! 「おお、着ぐるみ探偵さんじゃないですか! 一体どういうことですか?」  警部さん知り合いかよ! てか、何普通に意見聞いてるんだよ! どう見ても不審者だろ!  着ぐるみのウサギはずかずかと現場に入って行き、現場を調べ始めた。おい、こいつ部外者だろ! いいのかよ!? 「見て下さい。一見自殺に見えますが、ここに不自然な点が」 「なるほど。おい、ここを調べろ!」  いや、警察なんでこいつの言うこと聞いてんの? トリックにそんな穴があったの気づかなかったけど、おかしいだろ! 「これが他殺とすると、犯人は家の中に……?」 「そうです。巧妙にアリバイを作っていたのです。しかし、証言に矛盾のある人物がいますね」  どこで聞いてたんだよ証言! しかも全員の証言知ってるし! 「これからすると、犯人はあなたですね!」  着ぐるみは俺を指差した。合ってるけど。素晴らしい推理だけど、ピンクのウサギに暴かれたくなかったよ! せめて金田一少年とかコナン君とか、そういうのが良かったよ!  俺は観念して、今までの被害者との因縁を語ろうとした。だが、ウサギはそれを押しとどめた。 「あ、そういうの別に興味ないんで。僕はただ、事件の真相だけ語れればいいんで」  少しは語らせてくれよ!! 「僕は、事件という汚れをお掃除したかっただけなんです」  なんか決め台詞っぽいこと言って勝手に締めるなーーー!!!      ☆  手錠をかけられ、パトカーに乗せられて行く犯人を見ながら、若い刑事が訊いた。 「警部、あの探偵さん、なんであんな着ぐるみを着てるんですか?」 「ああ、あれか。何でも、犯人に与える精神的なダメージが大きいんだそうだ」 「そんなもんですかねえ……」  犯人を乗せて事件現場を去って行くパトカーを、ウサギは「嫌な事件だったぜ……」とでも言いたげな風情で見送り、庭の掃除に戻って行ったのだった。
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