終 章

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「彩芽は進路決まった?」  袋越しに彩芽を見る。梨央はこのまま付属の大学へ進学するらしい。 「まだ志望校は決めてないけど、関西の大学に行こうと思ってる」 「そうなんだ。合格したら春から一人暮らし? 彩芽、大丈夫?」  怪訝な顔になる。  梨央は彩芽の料理の腕を知っているのだ。  雅彦に大学生になったら一人暮らしをしたいと言ったら即座に却下された。 『この娘が一人で生きて行けるとは思えん』やら『彩芽は大事な預かりものだ』と大学生になったら芦名に戻すと言われてしまい、彩芽をほったらかしにして話が進んでいる。  ――私だって頑張れば料理ぐらいできるわよ。多分。  焼け野の(きぎす)を守る翼が思わぬところにあった。  少し面映ゆい。 「料理ができないくらいどうにかなるでしょ、それにコンビニもあるし」 「いいのか、声を掛けなくて?」 「必要ない。俺はもともと存在してない」  路肩に寄せた車の中から彩芽を見つけた。  チビの女子高生。  淡い琥珀色の目が印象的な野良猫娘だ。  今日は随分と頑張ったらしく浴衣姿が大人っぽい。  その華奢な姿はあっという間に人ごみに紛れて見えなくなる。  視線を戻し、頭の後ろで手を組んで伸びをする。  化け兎が消え厄介事が減った。 「必要ならまた会うことになる。会わない方がいいのかもしれないけど」    かごめかごめ   籠の中の鳥は  いついつ出やる    籠の中の鳥は外に出たのだ。  それにもう彩芽は幼い子供じゃない。  身を守る術も思い出した。  大事な人を失ったが代わりに何を得たのか。それはまだ分からない。  代わりに守らなければならない責任が新たに加わった。  もう呪いも存在しない。鬼は消えた。 「小さな子供じゃない。自分で進む道は自分で決めるだろう」  どこかスッキリしたような啓一郎。  車は歩行者天国を避け、大回りして国道へ入る。  大きな入道雲を見上げて京介が呟く。 「さて、次の仕事だ。じじいは使いが荒い」  最後までお付き合いくださりありがとうございました。  
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