6 章

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 肩で息を大きく吸い込んで吐き出すとぺったりと座り込んだ。  力を出し切った後のように体が重い。  ぼんやりと座ったままの背中に近づいてくる人の気配。  彩芽の肩に上着が掛けられてびっくりして見上げれば啓一郎がいた。 「その恰好では寒い。京介は気が利かない」  言いながら京介を睨む。重い体に他人の体温が恋しい。  夏も近いが薄着では確かに少し寒い。少し身震いして腕をさする。 「疲れた。頭が痛い」 「そうか」 「じじいが先祖返りの彩芽を欲しがるわけだ。芦名の(ばば)こんな伝家の宝刀隠して、えげつないわ」  二の腕をさすって心底嫌そうにしかめっ面をしたのは京介だ。  彩芽もつられて鬼のような祖母を思い出して苦い顔になる。  ――確かに鬼だ。 「分かる。祖母より鬼の方が優しかった」  恐ろしいことに比喩ではない。  ――千尋は優しかった。  今となっては思い出したくない過去だ。 「悪かったな、嫌な思いさせて」  苦笑して幼い子供にするように頭を撫でる。  確かにけしかけた京介が悪い。  それ以上に彩芽が悪い。そもそも自分の蒔いた種だ。 「これから私どうなるの?」  事故だろうが故意だろうが人を傷つけた彩芽にお咎めなしというわけにはいかないはずである。事実と呵責がずっしり重い。  明日からどうなるのだろう。  普通の生活ができるのか。不安しかない。 「呪殺は法では裁けない」  相変わらずこの男は説明が足りない。  じっとり見上げる彩芽の視線に気づいたのだろう京介が笑って説明する。 「処罰する法律がないんだよ。誰がやったか証明ができない罪は裁けない。だからと言って無罪になるわけじゃない。間違って使わないように組織側で管理される。彩芽は俺とは違うから大丈夫だ」  何かと問題を起こす京介と違い、彩芽は問題を起こさないだろう。 「こんなところで話す内容でもない」 「彩芽?」  座り込んだままの彩芽に京介が首をかしげる。  立ち上がろうにも手足に力が入らない。  今は体を支えるだけで精いっぱいだ。  ――生まれたての小鹿みたい? 「背負ってやろうか?」  しゃがんで視線を合わせて京介がどこか楽しそうに言うのを彩芽はにらみつける。  見た目はどうあれお年頃の娘である。  背負われるなど子供のようで恰好悪い。 「子供みたいでしょ、お断りよ!」
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