6 章

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「めんどくさ」  と呟いて京介は立ち上がりかけてへなと崩れた。  こちらも立ち上がれずに口をへの字に曲げ啓一郎を見上げる。  まるで子供のような仕草だ。 「啓ちゃん、疲れた。今朝から化け兎に嫌がらせされてイライラするし、じじいに嫌味言われていじめられるし、啓ちゃんにこき使われるし。目の前が暗くなってきた。俺、過労死するかも」  情けなく啓一郎に訴える。  覗いた京介の顔は心なしか白い。いや顔色が悪い。  ケガ人のくせに元気すぎる京介も悪い。 「単に血が足りないだけだろう。ちょうど迎えが来た」  啓一郎が顎をしゃくって言うのはあの世のお迎えではない。  近づいてくる人影は達彦だ。小声で啓一郎と何かを話して京介の方へ歩く。 「バカ犬。少しは懲りたか?」 「だれがバカ犬だ」  京介はへにょりと地面に崩れたまま文句を言う。  口だけは元気そうだ。  達彦は屈んで黙らせる意図を持って京介にデコピンを喰らわせて留飲を下げる。 「檻に入れとくぞ」  まるで荷物でも担ぐように京介を抱え背中を返す。  京介が何かわめいているが聞いちゃいない。 「好きにしろ。当分返さなくていい」  わめく京介がいなくなると途端に静かになる。  ――疲れた。眠い。 「京介は一度親しくなると傾倒する面倒くさい性格だ。だから甘いと言われる。口は悪いが彩芽を気にかけている。方向性を間違えることもあるが、根は悪い奴じゃない」  急に抱えあげられびっくりして彩芽は体を強張らせる。  啓一郎は丁寧な扱いをしてくれて彩芽はくすぐったくて下を向く。 「分かってる、ちゃんと助けてくれた」  ややあって彩芽は慌てて顔を上げる。  啓一郎の棘が少し柔らかくなった気がする。 「できれば、あまり毛嫌いしてくれるな」 「……もう少し、第一印象が良かったら違ってたかも」  アホや鶏ガラと言われたり、彩芽の京介の第一印象はよろしくない。  ややあって啓一郎が心底嫌そうにため息をついた。 「それは、無理だな」  
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