6 章

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5  梅雨もまだ明けてもいないのに蝉の声が聞こえ始めた。  もうすぐ夏が来る。  雲の切れ間から気の早い入道雲も見える。  彩芽は念のため十日ほど病院で様子を見ることになったが、順調に回復して現在は自宅に戻った。  ――体力だけは自信があるもんね。 『上』と呼ぶ組織は彩芽のお守役が来る以外、何の連絡もない。  芦名については夏休みに詳しい話をすることになっている。  ――たぶん、その時は父も来る。  どんな顔をして会えばいいのか分からない。  向こうは彩芽のことをどう思っているのだろう。少し怖い。  梨央からは心配するメールが毎日のように届く。  それに返信するのが日課になっている。  体調も良く、そろそろ学校にも戻れそうだ。  ――期末テストが気が重い。頑張らないと夏は補習で埋まりそうだ。  彩芽の周りでは平和な日常が戻りつつある。  ――多分。  本日のお守役はここのところ姿を見なかった京介だ。  何やら機嫌が悪い。 「達彦め。あいつは鬼や。一服盛ったあげくに布団で簀巻きにされて転がされて、俺は荷物か? 芋虫か? 啓ちゃんまで使って監視させるし、そこまでするか普通?」  あの二人ならやりかねないだろう。脳裏にその情景が目に浮かぶ。 「大人しくしないでしょ?」 「必要ないわ」  達彦の監視下に置かれたことがよほど腹に据えかねたらしく文句が止まらない。同時に啓一郎を見かけない理由も理解した。  ――気の毒に。啓一郎が。 「大事にされてるんじゃない?」 「気色悪ぅ。ただの嫌がらせや、嫌がらせ」  ――案外、喜んでるんじゃないの? 「私って普通の女の子じゃなくなっちゃうのかな?」 「さあな。普通でなくとも彩芽に違いはない」  数歩先に出て京介を振り返る。  見られた相手はどこか腑に落ちない顔。 「私、身長、伸びるかな?」  頭の上を掌でかざして笑うと「さあ」と京介も柔らかく笑う。  達彦によると彩芽は単に成長がゆっくりらしい。  体に異常はなく健康そのもの。  ――要するにただのチビだ。いや、もう少し伸びないとまずいでしょ。 「別にチビでもいいんじゃないか?」 「良くない」
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