終 章

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 商店街の中ほどで彩芽はいちごあめを買い、梨央はピンクのりんご飴だ。  りんご飴を手に人ごみの向こうを見て目を丸くする。  梨央は信じられないものを見たような顔をして思いっきり固まっている。 「彩芽、向こうから大きなサボテンのお化けが歩いてくる」  もうお化けは御免だと梨央の視線をたどって、笑った。  ――なるほどね。インパクトあるもんね。 「あれはこの商店街のゆるキャラ、サボテンのサボちゃん」  人ごみの向こうからゆっさゆさと巨体を揺らして現れたのは、商店街のゆるキャラ「サボちゃんだ」まん丸ボディにスイカのラインのような黒い筋と柔らかな棘もちゃんとある。  小さな手と大きなお目にニッコリ笑顔。  頭の上にはチャームポイントの赤い花。  ハーメルンの笛吹き男よろしく周囲に子供を引き連れて、今日は歩行者専用道路となっている通りを大きな体をゆっさゆさ揺らしてこちらへ闊歩してくるのだ。 「サボテンのどこが緩いのよトゲトゲじゃない?」 「私に訊かれても分かんないよ」  問い返す梨央に彩芽は買ったばかりのいちごあめを頬張る。  パリパリの飴と苺が甘酸っぱくておいしい。  小さなポンプを入れた水色の(たたらい)の中でゆったり泳ぐ金魚が目に留まる。親子連れが白いポイで赤い金魚を追いかけている姿に彩芽の胸の奥がチリと痛んだ。 「彩芽、金魚すくい、やろうよ?」 「やめとく。私、下手だもん」  はしゃぐ梨央の声に彩芽は首を振る。  小さな魚の命は儚い。小さくても命に変わりはない。  ――赤い小さな魚には罪はないけれどいい思い出がない。 「そっか」と笑う梨央は追及しない。  白いポイを手に梨央は腕まくりをしてしゃがみ込み、盥の中で一番大きな黒い出目金と赤い金魚を掬った。  目の高さに上げて覗き込んだ水の入ったビニール袋の中で二匹が涼しそうに泳いでいる。 
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