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「麻央」
──愛おしそうに嘘の名前を呼ぶ貴方の声が好きだった
「瑠衣」
──だから、あたしも愛おしい貴方の名前を何度だって口にした。
何度も何度も重ねたその身体。
中学生のあたしにその行為は早すぎたのかもしれない。
でも、いつも瑠衣は優しく丁寧にあたし触れてくれて、何も怖いことなんて1度だってなかった。
だから、あたしのことをこの人は好きなんだと、勘違いしてしまいそうになることもあった。
こんなに愛おしそうにされたら、誰だって勘違いをしたくなるもの。
でも、知ってるの。
瑠衣の心にずーっと棲み付いてる女の子の存在。
初めて瑠衣の家にきたとき、パタンと倒された机の上の写真たて。
瑠衣は見えてないと思っているだろうけど、幼い瑠衣と女の子の写真。
何年前から飾っているか分からないくらい少し色あせた写真を大切そうにゆっくりと倒すあたり、瑠衣はこの子のことをずっとそう思っているって感じた。
それにね、わかってた。
あたしと身体を重ねるたび、少し悲しそうな顔をすること。
身体を重ねる前に必ず伏せられた写真たてに目をやること。
瑠衣にとってきっとあの子は大切な存在だって気づいてた。
それでも、あたしのこと一番に思っていなくたってよかった。
瑠衣にとって一番ちかくいるのがあたしなら。
瑠衣はあたしといることでその子への気持ちを封印しているのかもしれない。
だから、あたしも何も言わなかったの。
あたしの本当の名前も年齢も、何も教えなかった。
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