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山登りをするようでも、ましてや 崖登りをするようでもないぶかぶかでアイロンのかかっていない皺だらけのシャツにウォッシュドブルーのジーンズという出で立ち。場違いにも程がある。
その中身、隙間から見える手首足首は白く細く骨が浮き出ている。首も骨ばってはいるが、喉仏の有無ははっきりしない。第二次性徴を迎える前だろうか。
顔は整っている。整っているという印象しか与えない程に整っている。
強いて言うなれば、普段は勝気に開かれている大きな瞳には、今日は涙が滲んでいた。それだけだ。
ショートヘア。ボブカット。手入れしているのかしていないのか定かではないが、強風に煽られてなびく髪は艶やかだ。
しかし女子と断定できるものでもない。
――中性。
そんな言葉のよく似合う人間だった。
そう、人間だった。
少年あるいは少女――he/she(ヒー/シー)は、間違いなく紛うことない人間だった。
悩み苦しみ、こんがらがる思考を振りほどくためにとさらに思考する人間だった。そして機械扱いに傷つかないほど大人でもない、感情をもつ人間だった。
he/sheは天才だった。誰もがそう呼んだ。he/sheの脳内で繰り広げられる思考と、それがアウトプットされた現実に対してそう呼んだ。
he/she本人を見る人はいなかった。だから叫んだ。
「だから」という理由だけでは片づかないほどにこんがらがった思考を整理するために。
いや、何も叫んだ理由はそれだけではないかもしれない。本人もわかっていないかもしれない。それほどまでに、何もかもが不明瞭だった。
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