その行為に生産性などないのに

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「もう嫌だ!」 少年は叫んだ。いや少女かもしれなかった。 ともかく年端のいかない、いたいけな顔をした、1人の、子供とも大人とも言い難い人間は叫んだ。 何が嫌なのか。それは言わなかった。ただただ「もう嫌だ」と叫んだだけだった。 崖の上。絶景好き、あるいは崖マニア、またあるいは自殺願望者の間では至高とされている東尋坊の先端で、その何者かは体を大きく前へと折り曲げて絶叫した。 曇天。時化(しけ)が強く、寄せる波は崖を切り崩そうとしているかのように迫りくる。 天気が優れないからか、他に観光客らしき人影はない。地元民もいない。だからこそ絶叫できた。人目もはばからずに叫ぶことができた。 少年あるいは少女の頭の中では、様々な事情が駆け巡っていた。 それは撚り糸のように長く多く、駆け抜けたと思わせて別の思考の糸と絡まっていく。 脳みその形を模するかのように、もつれた思考の糸は存在していた。 ――そう、存在していた。 目には見えない。だが確かに存在していた。 そして少年あるいは少女が思考停止するその時まで、その糸の固まりは存在し続けるだろう。
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