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「このように、頭で考えたことが本物さながらに現出する仕組みになっておりまして」
「これはVRのたぐいになるんですか」
焦茶色のセルフレーム眼鏡をかけ、コーデュロイのジャケットを着た男が掛け軸の裏をのぞき込みながらスーツ男に質問する。
「いえいえ。たしかに脳波を捉えるためには最新の機器を利用してはおりますが、この掛け軸そのものは弊社、いえ湖が開発した独自の技術によってですね」
「すばらしいわ。これでこの子も少しは病院暮らしの憂さ晴らしができると思います」コーデュロイの隣にいた、ニットワンピースの女がスーツ男に頭を下げた。契約は決まったようだった。
「私は時々、様子を見に来ようと思っています」
話し合いの最中、ずっと黙ったままだった湖老師は、去り際に男女にこう伝えた。ベッドの上の子供だけが、目を輝かせて頷いた。
「ほら、ちゃんとした装置だったじゃない」
「匂いまで再現するとはね……一体どういう仕組みになっているんだか」
「いいじゃないの、とりあえず今月は無料にしてくれると言うのだし」
「しかし湖とかいう開発者、いかにも妙じゃなかったか? あんなコスプレまでして」
「さあ……そういう演出をすれば子供にウケるんじゃないのかしら。向こうも商売なのだから」
「勇臣は喜んでいたな」
「そうよ。あんな顔は久しぶり。あの子がここから出るのは、難しいのだから……」
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