絵に描いた餅(に恋は出来ない)

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 湖は、最初の週は三日に一回のペースで少年のところにやって来た。その頻度を看護師にたしなめられてからは、一週間に一回になった。家族ではないのに面会カードを特別に与えられ、不織布をまとう前に首から下げた。  少年と湖はすぐに仲良くなった。湖は、よりリアルに巻物の絵を出させる工夫を少年に伝えた。強く念じること、なるべく実物に近いものを見ること。少年は両親に図鑑や漫画を度々要求した。いちどきに持ち込める私物の量は限られていたから、両親は彼のために新しくタブレットを買い与えた。 「あはは、ドラえもんが動いてる」 「あるものを動かすのも良いが、自分の考えたものを動かすのはもっとおもしろいぞ」  最初はうまくいかなかった。ひよこは頭が大きすぎたし、カモは水に溺れた。しかし、そのうちに鶏が空を舞い、蛇に立ち上がってダンスをさせられるようになった。少年の父が、掛け軸の絵を撮って天井に反射するプロジェクターを持ち込んだ。極彩色の龍が縦横無尽に飛び回る様を見て、少年は自分が龍の背に乗っているような気持ちになった。さすがに羽目を外しすぎて、常時モニターしている少年の体内の数値に異常が起こって、プロジェクターを使うのはその日限りになったけれど。
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