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すぐに掛け軸の中にもやが起こり、女の子の胸像が浮かび上がった。
「あれ、これはしずかちゃんじゃないか」
「ふむ。さきほど漫画を読んでいたからのう」
少年が何度試してみても、同じクラスだった少女の姿は満足に再現されなかった。頬に、目に、髪型に、おぼろげに面影を認めるだけで、全体としてこれはしれなちゃんではないと少年は悲しそうな顔をするのだった。湖は、母親に写真を持ってきてもらったらどうかと提案したが、少年はこれを拒否した。
「明日はきっと、会えると思うから」と。
しれなちゃんの顔は移り変わった。波瑠のようになったり、戸田恵梨香のようになったり、SKEの誰かの顔になったり。湖はそれらの顔を眺めているうちに、気が遠くなるような感覚を覚えた。この涼やかな目元、意志の強そうな濃い眉毛、これは優花じゃないか……。
「勇臣君、びっくりしないでね」
看護師が一人の少女を連れて病室に入ってきた。少年と湖の話を漏れ聞いていた看護師が、しれなちゃんに連絡を取って、見舞いに来てもらえるように算段したのだった。
しかし、彼女達が見たのは、床に昏倒する湖老師と、平坦な波形を示すモニターだった。
湖は別の病室に急ぎ運び込まれ、ベッドの周りにはすぐに医師や看護師が取り囲んで大騒ぎになった。上の騒ぎをよそに、ベッドの下にはスーツ男が最初に持ってきたパンフレットが一枚、ひっそりと横たわっていた。湖が倒れた時、懐にあったものが抜け出たらしかった。
そこには、やや不自然な笑顔を浮かべた湖の写真があり、最愛の女性と生き別れた悲しみに耐えられず、どうにか彼女を再現したいという願いからこの技術を編み出した、という起業のきっかけが書かれていた。
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