プロローグ

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

プロローグ

 今日ほど「転売」という言葉を日々の中で耳にする事は、過去になかっただろう。    これまで話題に上がる事が、ないわけではなかった。コンサートチケットを高額で転売する行為(いわゆるダフ屋)は昭和の時代から存在し、「迷惑防止条例」「物価統制令」に抵触するとして、実際に処罰された例も多く存在する。  近年、スマートフォンで手軽に使えるフリマアプリの普及によって、転売の裾野は大学生からシニア層にまで広がった。一億総転売、ブームから日常へ、もはや生業としている者もいる程となった。  書店の棚にはインターネットオークション、フリマアプリのコーナーが設けられ、「転売術」「楽して儲ける」といったタイトルの本が1冊や2冊ではない、恥ずかしげもなくずらりと並んでいる。  2020年春のコロナ禍には、マスクやアルコール消毒液といった、日常生活に不可欠な物品の転売目的の買い占め、出品が相次ぎ、行き過ぎた状況から「国民生活安定緊急措置法」の指定物品が追加されるという事態となった。「国民生活安定緊急措置法」は1974年のオイルショックの際、トイレットペーパー等の品薄を鑑み、国民生活の安定を目的として制定された法律で、指定物品が追加された事も、適用されたのも今回が初めてであった。また新たに罰則が追加され逮捕者も出たが、同年8月に指定物品からマスク等が除外され、同時に転売の規制も解除された。  これら転売という行為に筆者が肯定的なのか、中立なのか、否定的なのか、この冒頭で明言しておきたい。  転売は悪だ!恥を知れ!(一部の例外を除く)というのが、私の嘘偽りない本心だ。  「中立に近い否定的な視点」で書くよう心がけるが、筆者自身が完全な否定派なので、構成、言葉遣い等はどうしても否定派のそれになってしまうし、そのように書きたいので、肯定派の皆様へは大変不快な思いをさせる場合があるやも知れない。ご承知願いたい。  マスクの転売、ゲーム機の転売が社会現象となった際には、小売店従業員の心身への負担等が話題に上った。小売店従業員がSNS等で吐露した本音が、大きな反響を呼ぶ例もあった。  彼らは「転売ヤー」と蔑称され、悪質な場合は法律で対応される場合も出てきたのに、まだ止めないのは何故なのか。転売を行う事で、どれ程の恩恵を受けるのか。  筆者も日頃はいわゆる「転売アイテム」を取り扱う小売店舗に勤めている。そのため転売に関わる人(転売する側、される側双方)の心理には日々触れているので、その事を中心にお伝えしたいと思う。  逆に法的な観点でどうであるとか、こういう法解釈があるという話題は、専門外なので事象を列挙するに止める。これからお伝えするのは、あくまで精神世界の話である。  人の道から外れてまでしてやる必要がある事なのか、お考え頂きたい。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!