出張ですか?

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松永部長との打ち合わせの時間が近づいてきて、私は先に会議室に行って準備を始めた。部長には会議室の予約をした時点で、場所をメールで送っている。 開発企画部からもらった資料のコピーと自分が作成したプレゼン資料をクリアファイルに入れ、部長が座る席に置いて待っていると、13時半過ぎに部長がパソコンを持って会議室に入ってきた。 「悪い、少し遅れたな」 腕時計を確認しながら資料が置かれている席に座る。 「これが開発企画部からもらった資料か?」 「はい、そうです。それとプレゼン用の資料も作成しました」 部長はそれを手に取ると、パラパラとページを捲りながら目を通し始めた。 「前にもお話しましたが、福岡では駅前、空港に続いて、3店舗目になります。今回は地方では数少ない通り沿いのカフェになりますので、今までの『カフェ ラルジュ』のイメージとは少し違った内装にしたいと考えています。場所が福岡ということでカフェの激戦区ですし、市場分析からのターゲット層を考慮した結果、スタイリッシュというより温かみあるカフェとしましてアンティークのようなテーブルと椅子、間接照明を使ったカフェをイメージしています」 ここで一旦部長が何かコメントをくれるのかと様子を伺ってみるけれど、部長は私が作った資料に目を通したまま、何も言ってくれない。 私はさらに新店舗についての説明を続けた。 「それでターゲット層なのですが、新店舗の場所が最寄り駅から徒歩10分くらいであることと、福岡市内の繁華街からは少し離れていることを考えますと、観光客の集客はあまり見込めません。主に地元のカップルや女性をターゲット層として考えています。また幸いにも土地が広いことから駐車場のスペースもあり自家用車での来店を考えますと、やはり洗練されたカフェではなく年配の周辺住民にも利用しやすい落ち着いたカフェにしたいと思っています」 説明を終えて再び部長に視線を向けてみたものの、部長はなぜか難しい顔をして何か考えこんでいた。
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