こんなのキスじゃない

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「俺? 帰って何か買いにいくか、ビール飲んで終わりか、カップラーメンか、まあそんなとこかな」 「私がいたからコンビニに寄れなかったんですよね? なんかすみません」 「いや、そんなことはないよ」 否定はしているけれど、きっとそうだ。 ここまで帰ってきたのに、わざわざコンビニに何か買いにいくなんてことは絶対にしないだろう。 ということは、やっぱりカップラーメン? 「部長、おでんでよかったら食べますか?」 「えっ?」 「帰ってもきっと面倒になってコンビニにごはん買いに行くとかされないですよね? ビール飲んでカップラーメン食べるくらいですよね?」 「白石、お前まるで俺の生活を見ているような口ぶりだな」 「だってあの冷蔵庫の中を見たら……」 笑いながら部長を見ると、部長はきまり悪そうな顔をしている。 「おでん結構あるんです。昨日の夜作ったから味はしみてると思うんですけど。もし嫌じゃなかったら」 「本当にいいのか?」 「はい。この前も言いましたが、カップラーメンよりはいいと思いますよ。じゃあ私は先に帰っておでんを温めますので、お鍋はあとで取りに行きますね」 「わかった。……っていうか、鍋が無かったら持ってくるのが大変だろ?」 「あっ、そっか」 おでんを温めることばかりに気がいってしまい、家に鍋が無いことを忘れていた。フライパンしか鍋がなかったから、昨日は大きな土鍋でおでんを作ったというのに──。 エレベーターが到着して中に乗り込むと、笑いながら部長が口を開いた。 「俺があとで鍋を持って行くよ」 「そうですか? すみません。じゃあ30分後くらいに持って来ていただければ……。そしたら温まっていると思うんで」 すぐに3階に到着してエレベーターを降りる。 私は部長に頭を下げると、急いでドアの鍵を開けた。
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