こんなのキスじゃない

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「あの、部長。白菜の浅漬けとトマトのマリネを作ったんですけど、食べます?」 「えっ?」 「もし食べられるようでしたらタッパーに詰めようかと」 「いや、おでんだけで十分だよ。それより今の時間でその2つも作ったのか?」 「はい。おでんだけだと少ないかなと思って作ったんですけど……」 部長は「それだったらせっかくだから少しもらってもいいか?」と申し訳な顔をしながら、ところで……と今度は言い辛そうに私を見た。 「あんまり女性の部屋を見るのは失礼だが本当に俺の家と全く違うんだな。」 私の後ろに視線を向けて自分の部屋との違いに頷いている。 私の部屋は玄関を開けるとすぐにキッチンがあり、中扉の奥に狭い7畳の部屋がある。中扉は閉めているので部長から部屋の様子は見えないけれど、キッチンは丸わかりだ。 「だから言ったじゃないですか。部長の部屋とは全然違うって。部長のとこのキッチンくらいの部屋ですもん。待ってる間に見てみます? めちゃくちゃ狭いですよ」 話の流れでついそんなことを言ってしまったけれど、部長はかなり戸惑った表情を浮かべている。 「いや、いくらなんでも女性の部屋に上がるのはまずいだろ」 「でもどのくらい狭いか見てみたくないですか? ほんとびっくりしますから。私も部長の部屋に上がらせてもらったし」 「見てみたいかと言われたら見てみたいが、ほんとに上がってもいいのか?」 どうぞ──と部屋の方へ手のひらを向けると、部長は「おじゃまします」と言って靴を脱いで部屋の中に入ってきた。 2、3歩でたどり着く中扉のドアを開き、部屋の中を見せた瞬間、部長は驚いた声をあげた。
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