こんなのキスじゃない

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「はい。次の日が土曜日なので、もし飛行機の便を変更できるようでしたら福岡で1泊したいんです。カフェ予定地の近くのカフェに行って、実際にどんなお客さんが来ているのか見てみたいし、どんなものが注文されているのか見てみたいんです」 「そういうことか。出張の時の飛行機は変更可能なチケットだからそれは構わないが……。ただ、今回の出張は日帰りということで申請してあるから、宿泊代は自腹になるぞ」 「それは構いません。私もそのつもりですから。じゃあ、私だけ次の日に東京に戻ってくるように変更してもいいですか?」 部長は返事をせず、眉間に皺を寄せて何か考えている。 「部長、あの、飛行機変更してもいいですか?」 「わかった。じゃあ俺も宿泊に変更するよ」 「えっ? はっ? ぶっ、部長もですか?」 「ああ、白石の宿泊代、俺が出してやるよ。この間からいろいろ世話になったしな。今日もこんな風に飯食わせてもらってるし。それで次の日、一緒に新店舗予定地の近くのカフェを観察に行こう。何か新しい発見があるかもしれないしな。それに宿泊にすれば屋台でも飛行機の時間を気にせずに飯が食えるだろ?」 うそっ、部長も宿泊するの? どうして? こんなこと葉子や若菜ちゃんに知れたら、またとんでもないことを言われちゃうじゃん……。 「じゃあ白石、飛行機は俺が次の日の夕方の便に変更しておくな。ホテルも俺が予約しておくから」 えっ? と驚きの声をあげると同時に、急に頭の中に社食での葉子たちとの会話が浮かんできた。 松永部長と出張ってことは宿泊するホテルも一緒ってことでしょ? きゃー、想像するだけで興奮しちゃう──。 茉里、もし松永部長に誘われたらチャンスだからね。それでどうだったか教えて。最高だったとか、超絶に上手かったとかさ──。 驚いた顔をしたまま急に私が黙りこんだので、部長が慌てたように口を開いた。
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