こんなのキスじゃない

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「おっ、お前、なんか変な勘違いしてないか? 一緒の部屋に泊まるとかじゃないからな。安心しろ。ちゃんと2つ部屋を予約するから」 「ちっ、違います。かっ、勘違いなんかしてません!」 恥ずかしくて真っ赤になりながら、コップに入っていたビールを一気に飲む。 もう、葉子があんな変なこと言うから! 部長に変な想像してるって思われちゃったじゃん! 部長は、悪い悪いと笑いながら、「最後の厚揚げもらうぞ」と土鍋から取り、お皿に置いた。 その後、少し気まずいような無言の時間があったものの、部長が福岡の屋台のおすすめメニューや、福岡にいた時の仕事の話などをしてくれて、気がついたら白菜とトマトは全て無くなり、土鍋の中のおでんの具も残り4つだけになっていた。 「あー、腹いっぱい。なんか少しだけでいいっていいながらこんなに食べて申し訳ないな。白石、ごちそうさま」 箸を置いて手を合わせる部長に、こちらこそたくさん食べてもらってありがとうございます──と微笑む。 「白石、俺、皿くらい洗うぞ。こんなにごちそうになったし」 「大丈夫です。部屋も狭いですがキッチンはもっと狭いので部長は座っていてください。それよりお腹いっぱいかもしれませんが、プリンありますよ」 プリン? と子供のように反応した部長の顔をみて、クスッと笑ってしまう。 「部長、ほんとにプリンお好きなんですね。実は部長のお家の冷蔵庫でプリンを見てから私も食べたくなって買っちゃったんです。先にテーブルの上のものをキッチンに持って行きますので、ちょっと待っててくださいね」 土鍋を持ってキッチンへ行き、再び部屋の中に戻る。するとテーブルの上にはキッチンに持って行きやすいように部長がきれいにお皿を重ねてくれていた。 「あっ、部長すみません」 「すみませんはこっちだろ。ごちそうになっておきながら片づけも手伝わないんだから。白石、布巾があったら貸してもらえるか?」 キッチンに布巾を取りに行き、水で濡らして部長に渡す。部長は私に最後のお皿を渡すと、何もなくなった小さなローテーブルの上を拭き始めた。
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