こんなのキスじゃない

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「おっ、ほんとだ。旨っ」 口に入れた瞬間、笑顔になった部長に「ですよね」と言いつつ、私もプリンを口に運ぶ。 「確かに硬めだし、俺の好きなプリンだ」 「このプリン、昔ながらのプリンって感じで美味しいですよね。でもですね、もっと絶品ですごく美味しいプリンがあるんです。食べたら部長、きっと気に入ると思いますよ」 「そんな旨いプリンがあるのか? それもこの近くの店か?」 違います、と大きく首を振る。 「実は会社の近くなんです。神田の路地裏に昔ながらの素敵な喫茶店があって、そこで出てくるプリンが本当に絶品なんです」 「喫茶店のプリン? 神田のどこ?」 「会社から室町方面に歩いていって、一本脇道に入ったところにある『蔵田珈琲』っていう喫茶店です。プリンも絶品なんですが、ここのコーヒーも美味しいんですよ」 部長はポケットからスマホを取り出して、蔵田珈琲の場所を調べ始めた。 「なるほど、あの辺にあるのか。会社から近いな」 「はい、近いです。ぜひ行ってみてください。私も会社の帰りに美味しいコーヒーが飲みたくなったら行ったりしてます。素敵なカップでコーヒーを出してくれるし、それに自家焙煎のコーヒーなんですよ」 「へぇー、自家焙煎か……」 部長はしばらくスマホでお店の情報を見たあと、そのスマホをポケットの中にしまうと、「あのさー」と少し聞きづらそうに私を見た。 「あの本棚にある本って、前に白石が言っていた本か?」 指をさした方向に視線を向けると、どうやら恋愛のマニュアル本のことを言っているようだ。 「あのマニュアル本ですか? そうですけど……」 「ほんとに存在するんだな。ちょっと見てもいいか?」 「どうぞ、いいですよ」 私は本棚から4冊あるマニュアル本を取り出し、部長に渡した。
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