こんなのキスじゃない

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「そうか……。じゃあ………」 突然、低い声でそう呟いた部長が私の隣に近づいてきた。端正な顔でじっと私の顔を見つめながら距離を縮める。 えっ? どっ、どういうこと? 「もっと俺のほう、向けよ」 いつもとは違う雰囲気と真剣な瞳で私の視線を捉える。 「俺のこと、怖くないんだよな?」 「こっ、怖くなんかないです。私だってそんな冗談で言ったんじゃないですもん」 「じゃあ、このまま俺がキスしてもいいんだな?」 きっ、キス? キスなら私だってしたことあるしそんなの大したことじゃない。 私が望んでるのはその次のことだっていうのに。 早く経験して、みんなと同じスタートラインに立ちたいだけなのに。 「きっ、キスくらい、そんなの……、したことある……もん……」 精一杯虚勢を張って、部長の顔を見つめる。 本当にこのままキスをされてしまうのだろうか。 カーペットの上に両手をつき、必死に力を入れて身構える。 ならそんなに怖がるなよ──と、部長は色っぽい瞳を揺らして、低く甘い声で囁きながら右手を私の頬にゆっくりと滑らせ、顎をくいっとあげた。 初めて見る部長の『男性』を全面に出した雰囲気に、心臓はもう尋常じゃないくらいバクバクと音を立て始めた。
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