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「部長……、あの、これって……、今のって……、キス、ですか?」
えっ? と部長が少しだけ目を見開いて聞き返す。
「こんなの……知らない……、キスじゃない……」
首を横に振る私に、部長は私から視線を逸らすように顔を背けた。そして目をぎゅっと瞑ったあと、再び私に視線を向けた。
「ごめんな、白石。ここまでするつもりはなかったんだが……」
部長はそう言葉を発したあと、なぜかまた私から視線を逸らした。
どうしたのだろうか?
いつもならこんなにもあからさまに視線を逸らされることはないのに──。
部長の態度を見て不安になる。
キスをしたことで、部下に手を出してしまったという罪悪感に苛まれているのだろうか?
もしかしたらその罪悪感から、私とはもうあまり関わらないようにと避けられているのかもしれない。
段々と現実に引き戻され、ぼんやりとしていた頭の中がクリアになっていく。
私には松永部長とキスをしてしまったという驚きよりも、部長に視線を逸らされ避けられていると感じることの方がなぜかショックだった。
「部長、私は大丈夫、……ですから」
自分でも分からないけれど、これ以上部長に避けられるのだけは防ごうと、力を入れて無理やり笑顔を作ってみる。部長は何も言わず、少しだけ口元を緩めて微笑んでくれた。
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