一緒に福岡へ

2/17
前へ
/454ページ
次へ
部長がトランクにスーツケースを入れて、私の隣に乗り込む。 「羽田の第2ターミナルまでお願いします」 「はい、羽田の第2ターミナルですね」 行先を再確認するように運転手さんが答え、タクシーが動き始める。 部長はポケットからスマホを取り出すと、人差し指で操作をしながら「なあ」と私に視線を向けた。 「白石、飛行機の座席はどこを取ってる?」 ふいに視線を向けられ、「あっ、はい……」と答えながら、慌てて鞄からスマホを取り出す。アプリから自分の予約を出し、ここです──と画面を見せると、ちょっとそのままにしておいてくれるか──と部長は再びスマホの操作を始めた。 何度か自分のスマホと私のスマホの画面を確認して、「ありがとう、もう大丈夫だ」と頷く。 私がどこに座っているか確認したのかな? 部長はどこに座ってるんだろう。私の近くかな? 飛行機降りたら、出口で待っていたらいいのかな? スマホを鞄の中にしまいながらそんな疑問が湧いてきて、ゆっくりと部長に顔を向ける。そして、「あの、部長……」と窺うように声をかけた。 「部長の席ってどのあたりですか? 私、飛行機降りたら出口で待っていたらいいですか?」 「そう思って今俺の座席を白石の隣に変更した。ちょうど隣が空席だったんだ」 えっ? 私の隣に変更した? ってことは、飛行機は部長と隣同士の席ってこと? 目を見開いたまま部長の顔をみていると、「空港降りたらタクシーで新店舗予定地まで向かおう」と、当然のように話を続けられ、「わかりました」と答えながら私はまた顔を前に向けた。 朝早いせいか、タクシーは渋滞することなく順調に進み、6時半には羽田空港へ到着した。部長の後ろについて空港の中に入り、すぐに手荷物検査を受ける。 部長は搭乗ゲートを確認すると、腕時計を見ながら「まだ少し時間があるな」と呟き、「コーヒーでも飲むか?」と私に問いかけたあと、また歩き出した。
/454ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35076人が本棚に入れています
本棚に追加