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「部長、あれですか? あれが富士山ですか?」
窓の外を指差し、振り返りながら部長の顔を見ると、部長が窓の外を覗くように私の方へ顔を近づけてきた。
顔が近づいてきたことで、一瞬この前のキスのことを思い出してしまい、私はすぐに窓の外に顔を向き直した。
窓の外を見てはいるものの、頭の後ろにいる部長のことを意識してしまい、心音がうるさく鳴り始める。
「そうだ。あれが富士山だ。やっぱり今日は晴れてるから綺麗に見えるよな」
耳のすぐ近くから聞こえてくる声に、そうですね──と答えながらドキドキが止まらない。
どうしてこんなときにあのキスのこと思い出すの!
ダメ、早く頭の中から消えて!
そんなこと思い出しちゃダメ!
仕事だっていうのに、私は何考えてるの!
「白石、富士山の写真は撮らないのか?」
また耳のすぐ近くでそう問いかけられ、「とっ、撮ります。ありがとうございます」とお礼を言うと、私は慌ててスマホを窓の外に向けてシャッターボタンを押した。
窓の外にしか興味がないように振る舞いながら、何枚も写真を撮る。富士山の写真を撮り終えたところで、私は気持ちを落ち着かせるように深呼吸しながら息を吐いた。
なんかこの数十分の間でどっと疲れが出たようだ。
朝が早かったせいか、窓の外を見つめながら段々と目が閉じてしまう。
部長が隣にいるのに寝ちゃいけないと思いつつ、私はいつの間にか眠ってしまっていた。
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