一緒に福岡へ

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「ええ。私ももう歳だからこのギャラリーを閉めようと思っていたの。そしたらいろんな業者からウチにカフェをさせてもらえませんかって問い合わせがきてね。このギャラリーを新しいカフェとして使ってもらえるのは有り難いんだけど、そうは言ってもちゃんとした業者でお願いしたいじゃない? そんなときエムズコーポレーションの方が来られたの。松永くんはもう福岡にはいないけど、でもコーヒーのことが大好きな松永くんのいる会社だったらお願いしても後悔はないかなと思ってね」 「ありがとうございます。如月さんにそう言っていただけて本当に嬉しいです」 部長は本当に嬉しそうに顔を綻ばせながら丁寧に頭を下げた。 「でもこうして松永くん本人が福岡まで来てくれるとは思っていなかったわ。やっぱりあなたはすごいわね。偉くなってもこうして私のことを忘れないでいてくれるんですもの。仕事っていうのはこういうことの積み重ねだものね」 「如月さん、褒めすぎですよ。僕はそんなに大した人間じゃないですから」 「また謙遜しちゃって。こんないい男なのに何でまだ独身なのかしら。うちに孫娘でもいたら絶対松永くんをお薦めするのに、残念ながら男の子ばかりなのよね……」 如月さんは本当に残念そうに溜息を吐いた。 「そうだ白石さん、あなたはどう? 松永くん、きっといい旦那になると思うわよ」 「わっ、私は全然……。まっ、松永部長は上司ですから……」 突然話を振られ、大きく首と手を振りながら否定する。 あー、もうびっくりした。 急に話を振って来るんだもん。 心臓がドキドキと音を立て、背中にぶわっと変な汗が出てきた。 「もう僕の話はいいですから、それより如月さん、このギャラリーをカフェにするにあたり、外観はこのままでというのが契約なんですよね?」 部長が話題を変えるように、仕事の話をし始める。 「そうなの。外観だけは今のままのギャラリーを使ってほしいの。このギャラリーは主人との思い出の建物だから。内装は変更してもらって大丈夫よ。このテーブルや椅子を使うなら使ってもらってもいいわ」 「わかりました。少しフロアの様子をゆっくり見させてもらってもいいですか」 どうぞゆっくり見てちょうだい──と如月さんに言われ、部長と私はカフェスペース、ギャラリースペース、そして窓から見える庭や外観全てを見てまわり、気になったところのメモを取ったり、写真を撮っていった。
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