一緒に福岡へ

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「白石、途中まで食べたら今度は茶漬けにするからな。お刺身を全部ごはんの上に置いて、残ったゴマだれも全部入れるんだぞ。それで山葵や葱、海苔もかけて、最後にこの出汁をいれるんだ」 急須がテーブルの上に置かれていたのでてっきりお茶だと思っていたけれど、お茶ではなくお出汁だったようだ。部長がまた私に分かりやすく説明してくれながら、鯛茶漬けを作っていく。 「茶漬けにするとな、またさっきとは違ってこれがまた旨いんだ。この出汁が最高なんだよな」 部長がお茶漬けを作っている様子を真剣な眼差しで見つめている私を見て、「松永くんは本当に教え方が上手ねぇ。鯛茶が何倍にも美味しそうに見えるわ」と如月さんが感心したように頷いている。 私も部長が教えてくれたようにごはんの上に残りのお刺身と薬味を全て乗せ、最後にお出汁をかけた。熱々のお出汁の香りがふわっと鼻腔をくすぐる。 「うわぁ、さっきと全然違う……。っていうか、このお出汁が美味しすぎる!」 「だろ? この出汁最高だろ? 茶漬けにしたらまた格別だよな」 「はい。お出汁の熱さで鯛が湯通しされたみたいになって、そのまま食べたときと全然違う。鯛が甘いです。美味しーい!」 あまりの美味しさに箸が止まることなくお茶漬けを口に運んでいると、如月さんがクスクスと笑い始めた。 「あなたたち、食の好みが一緒なのね。人生の先輩としてひとこと言わせてもらうと、結婚っていうのは食の好みが合う人とするのが一番だからね。私の最初の直感通り、あなたたちお似合いだと思うけど」 「如月さん、さっきから何を言ってるんですか。僕と彼女はただの会社の同僚ですから。そんな対象ではありませんって」 部長が否定する横で、私も一緒に大きく頷く。 そうそう、部長と結婚なんて絶対にありえないし……。 「今はそうかもしれないけど、まあこの先は分からないからね。松永くん、追加はどう? もっとしっかり食べないと」 さっちゃん、もう一人前追加して──と厨房に声をかける如月さんによって、結局部長は鯛茶漬けをニ人前も食べていた。 その後、私たちはホテルまで送ってくれるという如月さんの申し出を丁重にお断りして、タクシーに乗って宿泊先のホテルへと向かった。
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