偵察ではなくてデート?

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お皿の上のものを全部食べ終わり、コーヒーを飲みつつ、私は鞄の中からノートとボールペンを出した。 お店の特徴、コーヒーやフードの感想、客層などをメモしていく。 「白石、お前は本当に真面目だな」 はい? と顔を上げると、部長が頬杖をつきながら私を見ていた。 部長ってこんな柔らかい表情もするんだ……。 優しく見つめられる目に、また心臓が大きくドクンと飛び跳ねた。 「だ、だって、あとで書こうと思ったら忘れちゃいそうですし……。それにこのあともう1軒行きたいカフェがあるんです」 「もう1軒? どこだ?」 スマホをタップしてお店の場所を表示させ、ここです──と部長に画面を見せる。部長は私のスマホを手に取ると、指でスライドさせながらカフェの情報を確認し始めた。 「へぇー、あのギャラリーからまだ奥に入ったところにこんなオシャレなカフェがあるんだな。観光客も見込めないしビジネス街でもないのに、この幹線道路沿いにチェーン店だけで3軒だろ。この辺はカフェの需要が高いってことか。だからあのギャラリーをいろんな業者が狙ってたってのか……」 ひとりごとのように呟きながら納得したように、なるほどな──と大きく頷いている。 「白石のおかげで新しい発見があって俺も本当に勉強になるよ」 「いえ、そんな……。私も部長と一緒だと勉強になることが多いし、いつも分かりやすくいろんなことを教えてもらえるので尊敬しちゃいます」 そんなことないよ、と言いながら部長は照れているのか視線を逸らすように腕時計を見た。 「もうそろそろ11時か。帰りの飛行機が16時だし、そろそろ次のカフェに行ってみるか」 はい、と返事して机の上のお皿とマグカップをトレイに乗せて椅子から立ち上がり、返却口へと持って行く。 そして私たちはお店を出ると、次の気になっているカフェに向かった。 如月さんのギャラリーを通り過ぎて、住宅街をてくてくと歩いていく。すると2階建ての洋風な戸建てのような建物が現れた。入り口にメニューが無いとそのまま気づかずに通り過ぎてしまいそうなカフェだ。 「部長、ここみたいですね。なんかすごくお洒落な建物……」 「そうだな。知らなかったら人の家だと思って通り過ぎそうだよな」 入り口から奥へと歩いていき、「OPEN」と書かれたドアの前に立つ。扉を開けると店内はとてもお洒落な空間が広がっていた。落ち着いたアンティーク調で纏められてあって、あらゆる場所にセンスのいい間接照明が設置されてある。そして、びっくりするくらいのかなりの人で賑わっていた。
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