偵察ではなくてデート?

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「このカフェオレ美味しいな。多分、コーヒーの苦味とミルクのバランスがいいんだろうな」 「カフェオレ美味しいか? このコーヒーも旨いぞ。多分ここのコーヒーは万人受けするように中煎りで焙煎されているんだろう」 テンションの低かった部長が、コーヒーの話になった途端、急に元気になった。 その姿にほっと胸を撫で下ろす。 「部長って飲んだだけで、中煎りとか深煎りとか浅煎りとか全部わかるんですか?」 「確かなわけじゃないが、まあだいたいな。ブラックだとその店本来のコーヒーの味がはっきりとわかるだろ? だから初めての店では必ずブラックコーヒーを頼むようにしてるんだ」 「そうなんだ。やっぱり部長ってすごいな。尊敬しちゃうところばかりです」 「そんなことないよ。俺も白石に教えてもらうことあるぞ。今回みたいに他店のカフェに行くのも勉強になるし、アップルパイとアイスのコラボがこんなに旨いとは知らなかったし」 部長が目を細めて微笑む。 「ほんとですか? アップルパイ、美味しかったですか?」 「ああ。パンケーキも旨かったが、こんな風にアイスを乗せてアップルパイを食べたのは初めてだ」 じゃあ──と溶けたアイスを絡めたアップルパイをフォークに刺し、片手を添えて部長の口元に持っていく。 「よかった。あんまり美味しそうな顔されてなかったから、本当はあまり好きじゃないのかと思ってました。どうぞ」 嬉しくて笑顔を向けると、部長は困ったような顔をしながらもアップルパイをパクリと口の中に入れてくれた。 「ほんと、このコラボ最高ですよね。私も食べちゃお」 同じようにアイスを絡め、アップルパイを口に運ぶ。 「冷たいアイスとの相性もいいけど、溶けたアイスに絡めるのも最高ですよね?」 美味しさに頬を緩めながら自分の口に運んだり、部長の口元に持っていったりと繰り返していると、私たちのテーブルの前にひとりの女性が立ち止まった。 「どうして……、どうして悠樹がここにいるの?」 声が聞こえてきた方に顔を向ける。 そこには髪が長くて背の高い綺麗な女性が私たちを見下ろしていた。
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