偵察ではなくてデート?

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「麗香、お客さんたちに気づかれたみたいだよ。早く行こっ」 友人の女性が彼女の腕を引っ張ると、彼女は「そうだね」と頷き、さっきまでの怪訝そうな表情とは違う、とても美しい笑顔を部長に向けた。 「松永さん、お久しぶりです。東京にいらっしゃると思っていたのに、こんな福岡でお会いするなんて思いもしませんでした。それに松永さんって女性の前であんなに美味しそうにパンケーキを食べられる方だったんですね。私びっくりしました。またご連絡しますね。失礼します」 パンケーキを美味しそうに食べられる方? どういう意味? 部長ってやっぱりパンケーキは好きじゃなかったのかな? でも今日は彼女に変なこと言われなくてよかった……。 ふぅーと小さく息を吐きながらほっと胸を撫で下ろしていると、彼女はもう一度私に鋭い視線を向けて友人の女性と一緒に立ち去っていった。 今の視線って彼女に睨まれた? ってことだよね? もしかして私のこと部長の彼女だって勘違いしたってこと? 彼女はまだ部長のことが好きなのかな? 彼女がどうして私を睨んだのかはわからないけれど、部長には何か声をかけた方がいいのだろうか。 それともこのまま知らないふりをしておいた方がいいのだろうか。 できることなら知らないふりをしておきたいけれど、この状態で何も言わないのは不自然な気もする。 カフェオレのカップを手に取りながら気づかれないようにチラッと横目で部長を盗み見ると、部長は静かにコーヒーを飲んでいた。 横からの表情では部長の気持ちは読み取れないけれど、部長が何も話してこない以上、今は何も言わない方がいい気がした。 彼女があの時放った言葉が頭の中に蘇ってくる。 私が思い出したくらいだから、もしかしたら部長もあの時言われた言葉を思い出しているのかもしれない。 私は残ったカフェオレを全部飲み干すと、お腹をさすりながら部長の方に顔を向けた。
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