偵察ではなくてデート?

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「部長、私、お腹いっぱいです。もう何も入りません……」 あのときの彼女だということは気づいていないふりをして、お腹がいっぱいで苦しそうな表情を浮かべてみる。 「昨日の夜もそんなこと言ってたよな」 部長はクスッと笑うと、手に持っていたカップをテーブルの上に置いた。 「そろそろ空港に行ってもいいですか? 同期の葉子と若菜ちゃんにお土産を買って帰りたくて。葉子は絶対に楽しみに待ってそうだから」 「そうだな。ホテルに荷物も取りにいかないといけないしな」 「あっ、そうだ。忘れてた!」 本気で忘れていた私に、また部長がクスクスっと笑う。 「じゃあそろそろ行くか」 部長はそう言うと、テーブルに置いてあった伝票を取り、立ち上がった。 「あっ、部長、それ私が払います」 奪おうとする私の手を掴み、そのまま下におろす。 「白石にはさっき奢ってもらっただろ? あれで十分だ」 「それじゃ、約束が違う……」 「約束? そんな約束したか? 行くぞ」 私がパンケーキもアップルパイもほとんど食べたにもかかわらず、結局私はまた部長に奢ってもらうことになった。 地下鉄で宿泊していたホテルまで戻り、預けていたスーツケースを受け取ったあと、タクシーで空港に向かう。ほんの15分程度で空港に到着し、私は出発ロビーにあるお土産屋さんをゆっくりと見て回りながら、葉子と若菜ちゃんへのお土産を選んだ。 お土産を選んでいる途中に美味しそうなクロワッサン屋さんも発見し、明日の自分の朝ごはん用としてクロワッサンもいくつか購入した。 そして部長と一緒に手荷物検査を受けて搭乗ゲートに到着した時には、出発時間の30分前になっていた。 「出発の30分前って……。結構ギリギリでしたね。まだ時間があると思っていたのに」 「俺もだよ。こんな時間になるとは思わなかった」 2人で顔を見合わせて、苦笑いを浮かべる。 「部長、今回の出張はとても勉強になりました。こうして実際にギャラリーを見せていただいて良かったです。それに宿泊してカフェ巡りもできたことで新店舗の参考にもなりました。本当にありがとうございました」 「いや、俺も今回宿泊してよかったよ。最初からプランを練り直さないといけないから大変だと思うけど、水曜日までによろしく頼むな」 はい、と返事して前を向くと、搭乗ゲートがオープンになった。
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