魔性のプリン

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蔵田珈琲は会社の近くにある。 今日は休日だから大丈夫だと思うけど、でももし部長と一緒にいるところを誰かに見られでもしたら、変な噂が立ってしまわないか心配になる。 別にやましいことはないけれど、誰かに見られて部長に迷惑をかけてしまったら申し訳ない。それに葉子になんか見られたりしたら、その後の葉子の行動が容易に想像できてしまう。少なくても一週間は質問攻めに合い、きっと拉致られて私が何か話すまで絶対に帰してくれないだろう。 やっぱり、現地集合の方がよかったかな?。 別々で行った方がいいよね? そう提案しようとしたら「そんなことは気にすることないって。行くぞ」と、部長が駅に向かって歩き始めた。 慌てて私も駅に向かって歩き始める。 「俺たちは新店舗の企画案をより良いものにするために他店の勉強として行くんだろ? 先週の土曜日と同じで仕事と一緒だ。まあ休日出勤にはならないけどな。もし誰かに見られて何か聞かれたら、他店の勉強だと答えたらいい。それでも何か言うようなヤツがいたら、俺がなんとかする」 「わかりました。そうします」 部長が全く気にしていないことが分かった私は、安心して部長と行動を共にすることにした。上野から神田まで電車で行き、そこから歩いて室町方面へと向かう。 神田界隈はビジネス街なので平日はサラリーマンやOLの人たちでとても人が多いけれど、休日はほとんど人が歩いていない。駅前に点在する飲食店には人が入っているけれど、それでも平日の会社帰りの時間帯に比べれば少ない方だ。私たちは幹線道路沿いから一本脇道に入り、一軒の昔ながらの喫茶店の前に到着した。 カランコロン──。 お店のドアを開けると同時に来客を示す可愛い鈴の音がして、カウンターの中にいた蔵田さんが入り口に視線を向ける。そして「いらっしゃい」といつもの笑顔でにっこりと微笑んでくれた。
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