魔性のプリン

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「こんにちは。お久しぶりです」 「茉里ちゃん、久しぶりだね。元気だった? カウンターしか空いてないんだけどいいかな?」 部長に視線を向けると、何も言わず頷いている。 大丈夫です──と言って、部長と一緒に蔵田さんがいる目の前のカウンター席に座ると、蔵田さんがすぐにおしぼりとお水、そしてメニューを出してくれた。 蔵田珈琲は自家焙煎のコーヒーが楽しめる、昔ながらの喫茶店だ。オーナーの蔵田さん自らが厳選して仕入れた豆を焙煎して、丁寧にドリップをしてコーヒーを作ってくれる。そのコーヒーの美味しさと穏やかな蔵田さんに人柄に魅せられて、いつもここは常連さんたちでいっぱいなのだ。 今日は平日じゃないし、土曜日のお昼過ぎだからそこまで混んでないかなと思っていたけれど、そんなことは全くなく、6卓しかないテーブル席は全部埋まり、カウンター席しか残っていなかった。 「部長、コーヒーが2種類しかないんですけど、おすすめとブレンド、どっちがいいですか? ブレンドはここに来たらいつでも飲める定番のコーヒーで、おすすめは週替わりのおすすめのコーヒーです」 「じゃあ最初はブレンドで」 「わかりました。あとプリンですよね?」 ニヤッと笑って部長の顔を見ると、何が可笑しいんだ──と冗談っぽく睨まれてしまった。 カウンターの中にいる蔵田さんにブレンドと手作りプリンを2つずつ注文する。蔵田さんはさっそくコーヒーを淹れる準備を始めた。 店内にはほどよい音量のジャズが流れ、訪れた人が穏やかになれるような心地よい空間を作っている。最近はお洒落なカフェや、『カフェ ラルジュ』のようなチェーン店のカフェがたくさん増えたけれど、ここ蔵田珈琲のように一杯ずつ丁寧にハンドドリップで淹れてくれるコーヒーはとても貴重だ。 美味しいのはもちろんのこと、とても味わい深くて、お湯をゆっくりと注いだ瞬間に店内がコーヒーの香りで充満するのはコーヒー好きにとってはなんとも言えないくらいの至福のひとときだ。 コーヒーが出来あがるころを見計らって、蔵田さんがプリンをテーブルの上に置いてくれた。お皿の真ん中カラメルがたっぷりとかかり、生クリームとアメリカンチェリーの乗ったプリンが美味しそうにプルンと揺れている。 続いて香りのいいコーヒーがその横に置かれた。 ティーカップは蔵田さんのコレクションで、毎回違った素敵なティーカップでコーヒーを出してくれる。
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