魔性のプリン

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「このあとどうする? ついでにメシでも食って帰るか?あの蕎麦屋でも行ってみるか?」 「あ、えっと、今日は……すみません、やめときます。あの、今頭の中にあることを帰って纏めたいんです」 「頭の中にあること?」 「はい。新店舗のことでいろいろ考えたことがあって。早く書いておかなきゃ忘れちゃいそうなんです」 確かに早く帰って頭の中にある考えを纏めたいとは思うけれど、別に部長の誘いを断ってまで早く帰りたいとは思っていない。だけど今の状態で部長と一緒にごはんなんかに行ったら、きっとあのキスのことを思い出してぎこちない態度を取ってしまいそうだ。 「そうか、白石は本当に真面目だな。じゃあそのプリン食べたら帰るか?」 部長のお皿を見ると、既にプリンは綺麗になくなっている。 私は急いでプリンを口に運ぶと、部長と一緒にお店を出て神田駅に向かった。 「部長は夜ごはん食べて帰られないんですか?」 「部下がこれから帰って仕事をしようとしているのに、俺だけ外でメシなんか食えないだろ?」 意地悪っぽくニヤッと笑顔を向ける。 「すみません。じゃ、じゃあ、今からごはん行きますか? 私、ごはん食べてから帰って纏めます」 真剣な顔をして謝った私に、「冗談だよ、冗談。悪かった」と部長は決まり悪そうに謝ってきた。 「俺もな、さっき蔵田さんから聞いた話が興味深くてさ、帰ってコーヒー豆について調べてみようと思ったんだよ。だから気にするな。悪かったな」 子供に謝るみたいに、許してくれと言わんばかりに頭にぽんぽんと触れる。 この間もそうだったけど、部長には私が子供のように見えているのだろうか。確かにあの綺麗で大人な雰囲気の彼女に比べたら私なんて子供みたいなもんだけど、私だってもう27歳だ。世間的にみたら大人の女性なのだ。やっぱりまだ経験がないことで、色っぽい大人の女性らしさっていうのが私には欠けているのかもしれない。 それに──。 毎回部長に言われて気になっていることがひとつある。 『白石は本当に真面目だな』 真面目。 最近この言葉を聞くと、私はどんどん自信がなくなっていた。
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