魔性のプリン

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今まで真面目に生きることは正しいと信じて生きてきたけれど、この真面目な性格のせいで、マニュアル本を信じきっていたせいで、恋愛に関してはことごとく上手くいかないし、彼氏はできないし、キスだってあんな激しいものだとは知らなかったのだ。あんな風に唇を食べられてしまうような、相手の舌が自分の口の中に入ってくるようなキスなんて想像すらしてなかった。 だから部長とキスをしてしまった時は、最初はとんでもないことをしてしまった──と悩んでいたけれど、時間が経つとともに、部長にあのキスを教えてもらえたことは大人の女性に一歩近づけたようで、すごく嬉しくて自信につながった。 部長は次に好きな人ができれば私の思うように行動してみろって言ってくれたけれど、でもやっぱりまだ全然自分に自信がなさすぎて怖くて前に進めない。一歩踏み出す勇気がないのだ。 電車の中で溜息をついていると、「溜息なんかついてどうしたんだ?」と斜め上から声が落ちてきた。 自分に自信がないとも言えず、私はさっき蔵田珈琲で考えたことを部長に伝えた。 「さっきあそこでプリンを食べてるときに思ったんですけど、器や盛り方って大事だなって思ったんです。ラルジュのプリンもお客さんからはかなり人気だけど、店内で食べる人よりほとんどテイクアウトされる人の方が多いじゃないですか? もし店内であんな風に提供できればもっとたくさんの人に食べてもらえるんじゃないかなって」 「なるほど。確かにそれは一理あるな」 「カラメルたっぷりのプリンに、カフェで使用する生クリームやフルーツをトッピングすれば見た目も美味しそうだし、コーヒーと一緒にとか、少し甘いものが食べたいなって思ったときに店内で注文してくれる人が増えるんじゃないかなって」 部長は静かに頷きながら私の話を真剣に聞いてくれている。 「ただ、食器やデコレーションに関しては研究をしてお客さんに食べてみたいと思わせる努力はしないといけないと思いますけど……」 福岡でのカフェや蔵田珈琲に行って思ったこと。 フードに綺麗なデコレーションや盛りつけ方をすれば素敵な器が映えるし、素敵な器を映えさせるには盛りつけ方が大切だということだ。どちらか一方だけだと、見た目の美味しさは半減してしまう。 「でもウチのプリンってプラスチック容器での提供なんで、あのプリンを器に出すことなんてできないし、プラスチック容器の上に生クリームやフルーツをトッピングしても可愛くないなって思って。せめてあの容器じゃなかったらな……。あっ、容器を変えても一緒か。プリンは容器に入ったまま出せないんだもん……」 再び溜息をついていると、プリンなら出せるぞ──と部長が呟いた。
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