魔性のプリン

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「えっ?」 「容器の中からプリンを出したいんだろ? 出せるぞ」 「出せるって、容器にぴったりとくっついたプリンですよ。スプーンで掬って移し替えるんじゃなくて、ひっくり返して山型のまま崩さずに出すんですけど」 「ああ、出せる。とろとろの緩いプリンじゃなかったら出せるよ。ラルジュのプリンの硬さなら出せるはずだ」 信じられないという顔をして首を振る私に、じゃあ実際にやってみるか──?と部長が得意そうにニヤッと微笑んだ。 上野駅で降りてコンビニに寄り、ラルジュと同じような硬さのプリンを選んでマンションまで歩いて帰る。 本当にこのプリンが綺麗な山型で出てくるのだろうか? 容器にぴったりとくっついているプリンだ。 ひっくり返してお皿に乗せて上からたたいて見ても、絶対に上手く綺麗な山型で出てくるはずがない。 「白石、まだ俺の言ったこと信じてないんだろ? 綺麗に出てくるところをウチで見せてやるよ。びっくりするなよ」 かなり自信があるのか、得意そうな顔を向ける部長と一緒に私は10階の部長の部屋に向かった。 「そこのソファーでも適当に座ってて」 キッチンでお皿を用意しながら、ソファーを指さす。 わかりました、と返事をして私はソファーに座った。 ここは先日、部長が熱を出した時に寝ていた場所だ。 高熱で辛そうだったあの時の部長の姿を思い出し、キッチンにいる部長に視線を戻してみたけれど、どうも落ち着かない。あまり見てはいけないと思いながらも部屋の中をきょろきょとと視線をさまよわせる。 それにしても部長の部屋はなんでこんなにも広いんだろう。同じマンションとは思えないほどの広さに、なんだか自分の部屋の狭さが恨めしくなってきた。 「じゃあこれからこの皿の上にプリンを出してみるか。俺が言っていたのは本当だったって思うはずだぞ」 キッチンからお皿とスプーンを2つ持ってきた部長が、私の隣に座った。 「部長、スプーンは確かコンビニの店員さんが入れてくれてましたよ」 「プラスチックのスプーンよりな、このスプーンの方が綺麗に取り出せるんだ」 部長は早速袋の中からコンビニで買ってきたプリンを取り出して、蓋を開けた。
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