魔性のプリン

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「蔵田珈琲のプリンの方が美味しいけど、コンビニのプリンもなかなか侮れないな。美味しい!」 「美味しいか。良かったな」 部長もプリンを口に運びながら笑顔を向ける。 「ところで部長ってほんとに教え方が上手ですよね」 「教え方?」 「はい。今回のプリンの出し方にしても、この間のマニュアル本についての説明も、仕事でもそうですけど教えてくれるのが上手だなって思うんです。エムズコーポレーションで働いてなかったら教師とか向いてそうですよね。部長みたいな人が教師だったら勉強がすごくわかりやすいだろうな」 「教師か。自分が教師に向いてるとか考えたことないな。そもそも親父が教師だからその選択肢はなかったのかもな」 「部長のお父さんって学校の先生なんですか?」 驚いて聞き返した私に「ああ、そうだよ」と答えて立ち上がると、部長は冷蔵庫からミネラルウォーターを2本持ってきた。1本を私の目の前に置く。 「知らなかった。だから教え方が上手いのかな」 「自分ではそんなこと思ったことなかったけど……。でも親父見てたら教師って大変そうだぞ。白石みたいな真面目な生徒ばかりじゃないからな」 ニコリと笑った部長に対して、また『真面目』という言葉が私の心に突き刺さった。 また真面目って……。 今、一番聞きたくない言葉なのに──。
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