魔性のプリン

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「部長、その真面目って言うの、もうやめてもらってもいいですか?」 「えっ?」 向けていた視線を下に落として俯く私に、部長が様子を窺うように私の顔を覗き込んだ。 部長とは視線を合わせないまま、口元にギュッと力を入れる。 「急にどうしたんだ? な、なんで?」 「その真面目って言われると、すごく自分に自信がなくなるんです」 「自信がなくなるって……。真面目っていいことじゃないか。真面目でなんで自信がなくなるんだよ?」 「この真面目な性格のせいで、恋愛がことごとく上手くいかないっていうか……。あっ、上手くいかないじゃないな、私には縁がないのか……」 あははっと自嘲するように空笑いをしてみる。 「そんなことないと思うけどな。周りに目を向けてみたら白石に好意を持っている男性はいると思うけどな」 部長は励ましてくれようとしてるのだろうけれど、私に好意を持っている男性なんてどこにいるんだろう。 部長の彼女みたいな綺麗で大人の雰囲気の女性だったらまだしも、私はそういう色っぽさが欠けている女性なのだ。そんなことあるわけがない。 励ましの言葉が逆にもっと自分がダメな人間に思えてくる。 「部長、そんな励ましていただかなくても大丈夫です。自分のことは私が一番よくわかっているので。なんか変な雰囲気にしちゃってすみません」 ぎこちない作り笑いを浮かべたあと、小さく頭を下げて目の前のプリンを掬って口に入れる。 甘いプリンのはずがカラメルのせいか、さっきよりほろ苦く感じる。 「実際にお前に好意を寄せているヤツはいるから。白石、それはお前の考えすぎだって」 「もういいです。すみません部長、ありがとうございます。あーあ、こんなに悩んで自信がなくなるくらいなら、もっと早く誰でもいいから経験しておけばよかった。この性格、ほんとに嫌だ」 私は2個目のプリンのお皿を手に取り、少し崩れたプリンにスプーンを入れた。さっきの綺麗な形のプリンとは違い、まるで私のようだ。 「そういうこと言うもんじゃない。原因はあのマニュアル本かもしれないけれど、結果的にそれは自分を大切にしてるってことだろ? すぐにそういうことをする女性より俺は自分を大切にしてる白石の方がいいと思うけどな」 自分を大切にしてる、か……。 そんな風にポジティブに考えられたらどんなにラクか。 自信のない今の私には、そんなポジティブに考えることなんてできない。
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