魔性のプリン

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「部長はいいですよね。いろんな人からモテるから。福岡でも女性の方たちから声をかけられていましたもんね」 これは完全なる八つ当たりだ。 こんなことを言うつもりなんてないのに、ネガティブな自分の気持ちを抑えられなくて部長に当たるとは。 私はなんて性格が悪いんだろう。 「えっ? 俺が? いつ?」 「屋台でごはん食べてたときです。隣に座っていた女性から声をかけられてましたよね? モテる人は違う、さすがだなって思いました」 そう話しながら、あの時感じたモヤモヤとするような、何かかつっかえているような気持ちが胸の奥に湧きあがる。 なんなの? この変な気持ち。 この間もこんな風に胸が変な感じだったけど……。 胸のあたりをさすっていると、「白石、お前もあの屋台でモテてただろ?」と部長が少し不機嫌そうな顔で私を見た。私が嫌味っぽいことを言ったから怒っているのだろうか? 「私、屋台でなんかモテてません。何か勘違いされてるんじゃないですか?」 「そんなことないよ。屋台の店員が他の客よりお前に優しかっただろ?」 「屋台の店員さん? 普通でしたけど」 「だからそれは白石が気づいてないだけだって」 「部長、あのですね。店員さんは基本お客さんには誰にでも優しいんです。いくら私にもうかける言葉がないからって、店員さんからモテてるなんて言われても嬉しくないです。逆にもっと自信がなくなっちゃう……」 自分の情けなさを隠すため、拗ねるように顔を背けて溜息を吐くと、「俺はそのままで充分いいと思うけどな」と部長が呟いた。 そのままで充分いいって、私はそんなの嫌だ。 私は一生このままなのだろうか。 この真面目な性格のまま、こんな風に自信がないまま、これからも過ごしていくのだろうか。 部長とキスをしてしまったときは、初めて自信がもらえたっていうのに。 もうあんな風に思うことはこれから来ないのだろうか。 「部長……」 顔を上げて視線を向けると、「んんっ?」と部長が私に顔を向けた。 視線を背けたくなるほど緊張して心臓がドキドキする。 今のこの思いを部長に伝えたら、また断られるだろうか……?
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