魔性のプリン

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「んんっ? なんだ?」 「あの……、この間のキス……、ありましたよね?」 部長が一瞬驚いた顔をして無言のまま目を見開いた。 「私……、最初はすごくとんでもないことしてしまったって思ったんですけど、時間が経つとともに部長にあのキスを教えてもらえたのは良かったなって、大人の女性に一歩近づけたような気がして嬉しかったんです。私が知ってるキスって、ただ唇を重ねるだけのものだったから……。だからあんなキスは初めてでした。あのキスで初めて少しだけ自信をもらえたんです」 こんな告白、部長にとっては迷惑このうえないと思うけれど、部長は何も言わず私の顔をじっと見つめている。 そんな部長の顔を見ていたら、初めて自信をもらえた嬉しさを思い出し、次第に涙が浮かんできてぽろりと零れ落ちた。私は視線を落として涙を指でそっと拭うと、もう一度部長に視線を向けた。 「でもやっぱりまだ自分に全然自信がなくて、こんな経験のない自分を相手に知られるのが怖くて……。だからってこんなこと部長にお願いするのは間違ってるってわかってるんですけど……。部長、私にあのキスの続きを教えてもらえませんか?」 「えっ……?」 「部長はすごく教え方も上手だし、わからないこともきちんと教えてくれるし、部長に教えてもらえるなら私……、もっと自信が持てると思うんです。もうこんな風に悩むこともなくなると思うんです」 「あ、あのな、白石……」 「前にあのお蕎麦屋さんで言いましたよね。練習相手になってくださいって。あれを、あれをお願いしたいんです。部長、お願いします」 私はソファーに座ったまま、部長に向けて頭を下げた。 心臓が激しいほどにドクドクと音を立てている。 恥ずかしくて、顔が熱くて、でもお願いしたくて──。 部長の答えが怖くて堪らない。 「白石、顔をあげて」 部長の柔らかい声が頭上から落ちてきた。 声の様子だと、どうやら怒ってはいないようだ。 私は恐る恐る顔を上げて部長に視線を向けた。
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